スマートグラスでカンニング? 世界で始まる「AI試験不正」と教育現場の対策

アイキャッチ:AIスマートグラスでカンニング
(画像:Google Geminiで生成)

日本でもここ2、3年で少しずつ登場し始めたスマートグラス/AIグラス。2026年5月についに日本でも最大手・Metaのスマートグラス「Ray-Ban Metaスマートグラス」「Oakley Metaスマートグラス」が販売開始となり、競合製品も含め、国内普及の糸口が見え始めてきました。

そのスマートグラス/AIグラスに関しては、元祖とも言えるGoogleグラス(Google Glass)の時代から、カメラによる無断撮影や録画(音声含む)によるプライバシー侵害が懸念点として指摘されています。

近年の製品はカメラの画質やマイクの品質も良くなっているうえ、たとえばMeta製品であればインスタライブ(Instagram Live)やFacebookライブもできるため、その懸念はさらに強まります。


さて、こうした懸念とは別に、最近もうひとつ問題視されていることがあります。それは試験での不正利用(カンニング)です。

本記事では国内外におけるスマートグラスの不正利用の事例紹介と、今後スマートグラスが試験制度にどのような影響を与えうるのかを考えます。

この記事のポイント
  • スマートグラスは盗撮やプライバシー侵害だけでなく、試験での不正利用という新たな課題を生み始めている
  • 日本では大学入試で実際に事件が発生し、大学共通テストのルールも見直された
  • 海外では生成AIとスマートグラスを組み合わせた「AIカンニング」が現実となっている
  • 今後は試験監督だけでなく、試験制度そのものの見直しが進む可能性がある
  • AI時代には「スマートグラスを禁止する」のではなく、「スマートグラスを前提とした制度設計」が求められる

日本でも起こったスマートグラスによる試験不正

日本でスマートグラスを使った試験不正が広く知られるきっかけとなったのが、2024年に発覚した早稲田大学の入学試験でのカンニング事件です。受験生はスマートグラスで試験問題を撮影し、その画像を外部へ送信。SNS上で協力者が解答を作成し、それを受験者が試験中に書き写していたとされています。

この事件で問題となったのは、スマートグラスそのものではなく、試験会場と外部をリアルタイムにつないだことです。

従来のカンニングは、紙のカンニングペーパーやスマートフォンに保存した情報など、受験者があらかじめ用意した情報を利用するケースが中心でした。

一方、この事件では試験問題そのものが試験会場の外へ持ち出され、第三者がリアルタイムで解答を作成するという、新しい形の不正が成立しています。

この事件は大学入試全体にも影響を与え、翌2026年1月に実施された令和8年度大学入学共通テストでは「受験上の注意」として、スマートグラスを含むウェアラブル端末が禁止対象として明文化されました。

受験上の注意(※PDF)では

携帯電話、スマートフォン、ウェアラブル端末(スマートウォッチやスマートグラス等)、タブレット端末、電子辞書……

を試験時間中に使用してはならない電子機器として列挙しています。さらに、

かばん等にしまわず,身に付けていたり手に持っていると不正行為となることがあります。

とも明記されました(ともにPDF9ページ)。

重要なのは、「通信していない」「録画していない」と受験者が主張しても、試験監督者はそれを外見から判断できないという点です。そのため現在では、スマートグラスは使用の有無ではなく着用そのものが試験運営上のリスクとみなされます。

実際、大学入学共通テストでは巡視中に監督者が受験者へ顔を上げることや、マスク・眼鏡を一時的に外すよう指示する場合があることも受験上の注意に盛り込まれました。日本ではスマートグラスによる実際の不正事件を契機として、試験制度にも影響を及ぼしたと言えます。

しかしこの問題、実は日本だけではありません。海外ではさらに一歩進んだ形で、AIを組み合わせた新たな不正が現実のものとなっています。以下は国内外で実際に起こったできごとです。

スマートグラスと試験不正に関する主な動き

2024年

早稲田大学入試でスマートグラス不正事件

2025年

大学入学共通テストにおけるウェアラブル端末の禁止を明文化

2026年

4月 韓国でAIスマートグラス不正が刑事事件に

6月 英国Ofqualが「試験制度への新たな脅威」と警告

7月 中国・華南農業大学でAIスマートグラス着用学生を摘発

海外では「AIが共犯者」になる時代へ

日本では早稲田大学の事件をきっかけに、スマートグラスの持ち込みや着用に対するルール整備が始まりました。

一方、海外ではスマートグラスによる不正は次の段階へと進んでいます。

早稲田大学の事例では「外部の協力者が問題を解き、その回答を受験者へ伝える」という構図でした。ところが近年は、生成AIの発展によって、その「協力者」の役割をAIが担うケースが現実のものとなっています。

韓国の事例:生成AIとスマートグラスを使ったカンニングで刑事事件に

2026年4月、韓国では国家資格試験やTOEICなどでAIスマートグラスを利用した組織的なカンニング事件が発覚しています。

韓国メディアによると、受験者はカメラ付きスマートグラスで試験問題を撮影。映像は生成AIへ送られ、AIが回答を生成し、その内容を小型イヤホンを通じて受験者へ伝えていたといいます。

警察は試験を不正に受験した受験者だけでなく、機材の販売や不正受験を仲介した関係者も摘発。韓国でAIスマートグラスを利用した試験不正として初めて刑事事件となりました。

中国の事例:大学がスマートグラス利用者を試験中に摘発

中国でも教育現場でスマートグラスへの警戒感が高まっています。

2026年には華南農業大学で行われた期末試験中、試験監督がAIスマートグラスを装着していた学生を発見。答案用紙を提出させ、その場で退室を命じました。

中国ではスマートグラス市場が急速に拡大しており、各大学でも試験での使用を警戒する動きが強まっています。現地メディアでは、生成AI対応スマートグラスの普及によって「試験不正のハードルはこれまで以上に下がった」と指摘する声も出ています。

英国の事例:試験制度そのものへの脅威として警鐘

各国の中でも特に危機感を示しているのが英国(イングランド)です。

イングランドの資格・試験規制局(Ofqual)は2026年、「スマートグラスや隠しイヤホンなどの高度なデバイスが試験制度への新たな脅威になっている」と警告しました。

Ofqualの最高規制責任者であるイアン・バウカム卿(Sir Ian Bauckham)は、「技術は急速に進歩しており、試験制度もそれに対応しなければならない」と述べている。

また英国メディア『The Guardian』は、スマートグラスと超小型イヤホンを組み合わせれば、試験監督者が気付かないままAIから回答を受け取れる可能性があると報道。TechRadarも、「最悪の場合、生徒は試験資格そのものを失う恐れがある」として教育機関に警鐘を鳴らしている。

英国では、個別の不正事件への対応だけではなく、「AI時代に試験制度そのものをどう守るか」が議論の中心となり始めている。

参考2 Smartglasses and earpieces may worsen exam cheating in schools, says Ofqual (the Guardian

米国でも大学が対応を模索

この問題は欧州やアジアだけのものではありません。米国でも、プリンストン大学などの教育機関でスマートグラスや生成AIの普及を前提とした試験のあり方が議論され始めています。

TechRadarは、スマートグラスやAIアシスタントの進化によって、従来の監督方法だけでは試験の公平性を維持することが難しくなる可能性を指摘しました。


この問題について、現時点では世界共通の対策は存在しません。ただ、各国に共通しているのは「スマートグラスは将来的な問題ではなく、すでに対策を始めるべき課題」と認識され始めていることです。

ここ数年で状況が急激に変わったのは、言うまでもなく生成AIの急速な進化が背景にあります。

AIの進化で「共犯者」が不要に

国内外の事例を見ると、ひとつの大きな変化に気づきます。生成AIが「試験不正の共犯者」になり始めたということです。

人が解いていた時代

これまでの試験不正では、受験者一人だけで完結するケースは限られていました。先の早稲田大学の事例では、受験生がスマートグラスで試験問題を撮影し、SNSを通じて試験会場の外部へ送信。外部の協力者が問題を解き、その回答を受験者へ送り返していました。つまり、不正を成立させるには、

  1. 問題を撮影する人
  2. 問題を解く人
  3. 回答を伝える仕組み

という複数の役割と人が必要でした。そのため、不正が発覚すれば、協力者の存在や通信履歴などから事件の全容が明らかになりやすかったと考えられます。

AIがその役割を代替する

ところが、生成AIの登場によってこの構図は大きく変わり始めています。

韓国で摘発された事件では、スマートグラスで撮影した問題をAIへ送り、生成された回答をイヤホンで受け取る手口が使われました。AIが問題を読み取ってその場で解答を生成するため、「試験会場の外にいる共犯者」という存在がすでに不要なのです。

自然言語処理や画像認識の性能向上により、生成AIは大学入試や資格試験レベルの問題であっても短時間で回答を生成できるようになっています。これをスマートグラスと組み合わせれば、

  • 問題を撮影する
  • AIが内容を認識する
  • 回答を生成する
  • 音声やディスプレイで受験者へ伝える

という一連の流れが、数十秒程度で完結する可能性があります。

「通信を遮断すればよい」では済まなくなる可能性

さらに将来的には、試験運営者にとってより難しい問題が生じる可能性も考えられます。

現在はクラウド上のAIサービスを利用するケースが一般的ですが、小規模なAIモデルはスマートフォンやPCだけでなく、ウェアラブル端末上でも動作するようになりつつあります。

今後スマートグラスの性能が向上すれば、AIが端末内で動作し、外部との通信を必要としないケースも出てくるでしょう。そうなれば、従来のようにスマートフォンの電波を遮断したり、通信機器の利用を禁止したりするだけでは十分とは言えなくなります。

現時点ではまだそこまでAIもスマートグラスも進化していませんが、AIや半導体の進化スピードを考えれば、将来的な可能性として十分に視野へ入れておく必要があるでしょう。

問われているのは「AIの性能」ではない

この問題を考えるうえで重要なのは、実は「AIが試験問題を解けるかどうか」ではありません。

生成AIはすでに多くの学力試験や資格試験で一定水準以上の回答を生成できることが知られています。重要なのは受験者が試験中にAIへ容易にアクセスできる環境が整いつつあることです。

スマートフォンは端末を取り出したり目を落としたりする動作が必要であり、試験監督者にも見つかりやすい。一方、スマートグラスは眼鏡という日常的な形状をしているため、視線を動かすだけで情報を取得できる可能性があります。

生成AIそのものではなく、AIと人間をシームレスにつなぐインターフェースとしてスマートグラスが登場したことが、試験制度にとって新たな課題となっているのです。

だからこそ、問題は「スマートグラスを禁止するかどうか」ではなく、「スマートグラスが存在することを前提に、試験制度をどう設計し直すか」ということになります。

世界各国の教育機関や試験運営団体では、すでにその議論を始めています。では実際に、教育現場はどのような対応を始めているのでしょうか。

試験制度はどう変わっていくのか

スマートグラスや生成AIの普及によって、教育現場は新たな対応を迫られています。現時点では万能な対策は存在しませんが、日本を含めた各国の動向を見ると、対策は大きく3段階で進むと考えられます。

短期:持ち込み規制と試験監督の強化

すでに始まっているのが、試験ルールそのものの見直しです。

日本の大学入学共通テストでは、スマートグラスを含むウェアラブル端末の使用禁止が明文化され、着用しているだけでも不正行為と判断される可能性があることが示されました。海外でも、試験会場への持ち込み禁止や本人確認の厳格化、試験監督の強化などが進みつつあります。

また、一部の試験会場では金属探知機を用いた入室検査や、電子機器の持ち込み確認を実施する例もあり、今後はこうした対策がさらに広がる可能性があります。さらに、大学や資格試験ではスマートフォンの通信を妨害するため、携帯電話の電波遮断装置(ジャマー)が導入されるケースもあります。

参考2 大学入試の不正防止、スマホ電波遮断や次年度の出願停止は見送り(読売新聞

もちろん、スマートグラスの脅威は通信だけではありません。AIが端末内で動作するようになれば、通信遮断だけでは十分な対策とは言えなくなる可能性があります。

中期:技術で技術に対抗する時代

こうした状況もあってか、スマートグラス自体を検知する技術も登場し始めています。2026年には、個人エンジニアが周囲のスマートグラスをBluetooth経由で検知し、利用者へ通知するアプリ「Nearby Glasses」を公開しました。

このアプリ自体はスマートグラスを使用した不正対策を目的としたものではなく、あくまで個人による研究的・実験的アプリであり、実用性や検知精度は未知数です。しかし、「スマートグラスを見つけるための技術」が登場したこと自体が興味深いとも言えるでしょう。

一方で、試験問題そのものをAIに解かれにくくする研究も進められています。たとえば、人間には見えない形でAIへの指示(プロンプト)を埋め込み、AIを誤った回答へ誘導する「不可視プロンプト」がその一例です。

もちろん、こうした技術だけですべての不正を防げるわけではありません。AIが進化すれば、こうした対策を回避する技術が登場するかもしれません。いわば「AIを使用した不正」と「AI自身による回避策」のいたちごっこが始まるというわけです。

長期:試験そのものが変わる可能性

現時点では仮説の域を出ませんが、長期的には試験監督方法だけでなく、試験制度そのものが見直される可能性もあります。たとえば、

  • 暗記中心ではなく思考力を問う問題の増加
  • AIだけでは評価しづらい問題の比重拡大
  • 口述試験や面接試験の増加
  • 実技やディスカッションを重視した評価方法への転換

などが考えられます。

実際、生成AIの急速な普及を受け、多くの大学ではレポート課題やオンライン試験のあり方が見直され始めました。スマートグラスが一般化すれば、その流れが試験会場にも広がる可能性は十分考えられます。

もちろん、こうした変化がすぐに起こるとは限りません。が、「スマートグラスが存在しない時代」を前提として設計された試験制度は今後見直しを迫られる場面が増えていくでしょう。

求められるのは「スマートグラス前提」の試験制度

ここまで見てきたように、スマートグラスによる試験不正はもはや日本だけの問題ではありません。

実際に日本では大学入試で事件が発生し、大学入学共通テストのルールが見直されました。海外でもAIスマートグラスを使った不正や、教育当局による警告が相次いでいます。

共通しているのは、「スマートグラスの性能」が問題なのではなく、従来の試験制度が想定していなかった新しいリスクが現実のものになり始めているという点です。

問われるのは「どう禁止するか」ではない

もちろん、スマートグラスそのものが悪いわけではありません。

近年は生成AIとの組み合わせによって、リアルタイム翻訳やナビゲーション、作業支援、アクセシビリティ支援など、さまざまな用途で実用化が進んでいます。MetaやGoogle、Appleをはじめとする大手企業も市場への本格参入を進めており、今後さらに普及していく可能性は高いでしょう。

だからこそ重要なのは、「スマートグラスを禁止するかどうか」という議論ではありません。

スマートグラスが存在することを前提に、試験制度をどのように運営するか。

その視点への転換が、教育機関や試験運営者に求められています。

試験制度は転換点を迎えている

これまで多くの試験は、「受験者は外部と切り離された環境で受験する」という前提のもとに設計されてきました。しかし、スマートグラスと生成AIの組み合わせによって、その前提は少しずつ揺らぎ始めています。

持ち込みルールの見直しや監督方法の改善だけでなく、AI時代に適した問題形式や評価方法をどう設計するのか。そうした議論は、今後ますます重要になっていくでしょう。

大学入試だけではありません。資格試験や採用試験、公務員試験など、あらゆる試験制度が同じ課題に向き合うことになります。

スマートグラス時代、試験制度はどう変わるのか

新しい技術が社会へ浸透するたびに、それに合わせて制度やルールも変化してきました。

スマートフォンの普及によって試験会場での電子機器の扱いが見直されたように、スマートグラスの普及もまた、試験制度に新たな見直しを促すことになるでしょう。

もちろん、当面は持ち込み規制や監督体制の強化が中心になるはずです。しかし、生成AIやウェアラブルデバイスの進化を考えれば、それだけでは対応が難しくなる可能性もあります。

今後問われるのは、「スマートグラスをどう排除するか」ではなく、スマートグラスや生成AIが存在することを前提に、公平性をどう確保するかという視点です。

技術の進化は止められません。だからこそ、試験制度もまた、技術の進化に合わせて進化していくことが求められています。