
英国の市場調査会社Omdiaは2026年8月19日、ARディスプレイの世界出荷台数が2030年に2100万台へ達し、VRディスプレイの1,900万台を上回るとの予測記事を公開した。
XR向けのニアアイ(Near-eye)ディスプレイ市場では、VRからARグラスなど軽量なデバイスへと需要が移りつつあり、今後も市場構造が変化するとみられている。
ARディスプレイが2030年に2100万台へ

XRニアアイディスプレイ出荷台数・前年比成長率(YOY)予測
| VR 出荷台数(百万台) | AR 出荷台数(百万台) | VR 前年比成長率 | AR 前年比成長率 | |
| 2024 | 15.2 | 0.9 | -7% | 14% |
| 2025 | 11.0 | 1.6 | -28% | 70% |
| 2026 | 10.5 | 4.1 | -4% | 154% |
| 2027 | 12.7 | 6.6 | 21% | 62% |
| 2028 | 14.3 | 10.8 | 13% | 64% |
| 2029 | 16.2 | 15.2 | 14% | 41% |
| 2030 | 19.4 | 21.4 | 20% | 40% |
| 2031 | 24.0 | 30.4 | 23% | 42% |
| 2032 | 30.9 | 40.8 | 29% | 34% |
Omdiaの最新のXRニアアイディスプレイ市場予測によると、2030年のARディスプレイ出荷は2100万台となる見通し。一方、VRディスプレイは1900万台と予測されており、ARディスプレイがVR向けを200万台上回る。
これは、XR市場の中心がVRヘッドセットからARグラスへ単純に移るというより、ディスプレイを搭載するデバイスそのものの設計思想が変化していることを示す動きといえる。
Omdiaはまた、XRニアアイディスプレイ市場における構成比についても変化を予測している。VRディスプレイの比率は2026年の72%から2032年には43%へ低下する一方、ARディスプレイは28%から57%へ上昇する見込みだ。
つまり、今後数年間でXR向けニアアイディスプレイ市場ではVR向けディスプレイが占める割合が縮小し、AR向けが過半数を占める構造へ変わっていくことになる。
スマートグラスでは「性能・重量・バッテリー」の両立が課題に
ARグラスやAIグラスの普及を左右する要因の一つが、性能、デバイス重量、バッテリー駆動時間のバランスである。
高性能なコンピューティング機能やディスプレイを搭載すれば、できることは増える。一方で、部品が増えれば本体重量や消費電力も大きくなり、メガネ型デバイスとしての使いやすさに影響する。
この問題への一つのアプローチとしてOmdiaが挙げているのが、Ray-Ban Metaスマートグラスのように、ディスプレイを搭載せず、AI処理やカメラ、音声などを中心としたデバイスである。
ディスプレイを省くことで、重量や消費電力を抑えながらAIを利用できる。一方、ユーザーの視界に情報を表示するには別の技術が必要になるため、メーカーにとっては「スマートグラスにディスプレイを搭載する必要があるのか」という設計上の判断も重要になっている。
Omdiaは、こうした制約があるなかでもARグラス向けディスプレイの需要は今後伸び続けるとみている。ただし、重量や電力消費といった問題が成長速度を抑える可能性も指摘している。
VRでは小型・軽量なディスプレイ技術が重要に
一方、VR市場でもデバイスの小型化・軽量化が重要なテーマとなっている。
Omdiaは、VR向けではシリコンベースのOLEDディスプレイ技術が長期的な優位性を得ると予測している。VRヘッドセットではより小型で快適なデバイスを実現することが求められており、ディスプレイ技術もその方向に合わせて進化していくと考えられる。
ARとVRは異なる用途を持つものの、どちらも「高性能化」と「小型・軽量化」の両立が課題になっている点は共通している。
AIの普及がスマートグラスのディスプレイ戦略を左右
Omdiaのディスプレイ部門で主席アナリストを務めるJay Shao氏は、AIがユーザー体験において重要性を増すなかで、ディスプレイの役割が見直されていると指摘する。
AIグラスでは、カメラやマイクによる情報入力、音声による応答など、ディスプレイを使わなくても成立するAI体験が広がっている。その一方で、ナビゲーションや通知、リアルタイム情報などを視界に重ねて表示する用途では、ディスプレイが重要になる。
今後のスマートグラス市場では、「AIを搭載するか」だけでなく、AI体験のためにディスプレイをどこまで必要とするのかが製品設計を左右する可能性がある。
Omdiaの予測は、こうした設計上の変化がXR向けディスプレイ市場の構成にも反映され、2030年代に向けてARディスプレイの存在感がVR向けを上回っていく可能性を示している。
今回の予測は「ARがVRを追い抜く」という単純な市場シェア争いの話ではなく、VR/MRヘッドセットやスマートグラスそのものの軽量化がディスプレイ市場を変える可能性があるという話です。
Ray-Ban Metaスマートグラスのようなディスプレイ非搭載のAIグラスが普及する一方、RokidやEven Realitiesのように、視界への情報表示を売りにしている製品もあり、今後も「ディスプレイのあり/なし」が各社の製品差別化ポイントになると思われます。
そうした点からも、2030年にARディスプレイがVR向けを上回るという予測はVRが衰退するという意味ではなく、XR市場全体におけるデバイスの進化(小型化・軽量化)として考えたほうがよいかもしれません。
(出典:Omdia)
