「日常の気づきとか、新しく知ったこととか、ちょっと大きめの人生のテーマなんかをつい長々と語ってしまうクセがあるんですよね」
By Teddy Cambosa (2025/8/19)

VTuber活動(VTubing)は、常に「現実からの逃避」として考えられてきた。だが、ひたすら「メタ」なコンテンツばかりを浴び続けていると、こう思わずにはいられなくなる。
「マンネリに感じてしまうなら、それは本当に『現実逃避』と呼べるのか?」
だからこそ、VTubingにおける多様性は歓迎されるし、ファンにとって自分に合ったさまざまなタイプのコンテンツを見つけるきっかけになるのだ。
では、もっと肩の力を抜いて楽しめるVTubing ― ただリラックスできるだけでなく、考えさせられるものを与えてくれる配信 ― があったとしたらどうだろうか。
ここで登場するのがインディーVTuberのノイラ(Noira)だ。彼女は「ロックグラスを片手に人生を語る、海キツネ(シーフォックス、sea fox)のお姉さん」として知られている。
バージョン2.0デビューを目前に控えた今、私たちはなぜ深い会話中心のコンテンツに注力するのか、彼女のデザインに込められた「現実逃避」への思い入れ、そして今後のVTuberとしての展望について話を聞いた。
美学と思索を織り交ぜる
― 美学や“バイブス”は、あなたのVTuberとしてのブランディングにとって欠かせない要素ですよね。どのようにしてその世界観を形作ってきたのか教えてください。
ノイラ: 私は昔から美しい構図や、雰囲気のある写真や映像が大好きなんです。それに、モデルのパパとママであるPekoponjinさんとLeKaleさんが素晴らしいVTuberモデルを授けてくれましたし、なにより私自身「現実逃避」が大好きでして(笑)。
だって現実は24時間365日あるんですよ? ちょっとした逃げ場くらい、あってもいいじゃないですか。だからこそ、私の配信やコンテンツは美しく、日常系アニメを思わせるような雰囲気で、いい空気感と思いやりに満ちたものにしたいと思いました。
私のバックストーリー(lore)に関して言えば、「バーを経営しているシーフォックス」という以外は特に決めていないんです。「カルトっぽい」とか「不死の神かも」とかはコミュニティのみんなが勝手に盛り上がって作ったもので、それを私は微笑ましく見守っているだけですね。
実際のところ、彼女のバックストーリーは「カルト疑惑」を超えて、彼女の出自や「ニュー・フォーチュン・シティ」での現在の姿、そして「神殿」とその「タイドリング(Tidelings、ノイラのファンネーム)」との関係にまで深く掘り下げられている。
「D&M」のひらめき
― あなたのコンテンツはフリートークや動画エッセイを通じて、日々の思索を解きほぐしていくことにあります。このスタイルでいこうと思ったきっかけは? そしてなぜ今、ファンにより強く響いていると思いますか?

ノイラ: 私は人と飲みながら深い話をするのが大好きなんですよ。オーストラリアではそれを「D&M(Deep & Meaningful、深くて意味のある話)」って呼んでました。そこに漂う雰囲気や感情、しみじみとした気持ちが本当に大好きで。
昔はゲーム実況とか面白ネタ系もやっていたんですが、どうもピンとこなくて……。思慮深い人生トークを中心にし始めて「これだ!」ってなったんですよね。
ビジュアル面のインスピレーションはやはり日常系アニメから来ています。特に新海誠作品やインディー映画、あとは私の大好きなVloggerのTatsukiさんから大きな影響を受けています(彼のカラーグレーディングは本当にすごい!)。最近はウォン・カーウァイの雰囲気を目指したりもしていますね。

人生トーク自体は自然に出てきたもので、日常の気づきとか、新しく知ったこととか、ちょっと大きめの人生のテーマなんかをつい長々と語ってしまうクセがあるんですよね。
最初は「こんなことするコンテンツクリエイター、ましてVTuberなんておかしいのでは?」と思ったんですけど、意外にも好評で……本当に感謝しています。

話題のきっかけになるのは、本(最近ではダニエル・ゴールマンの『EQ こころの知能指数』(※)。おすすめです!)、見た動画、読んだ記事、あるいは友人との会話などですね。
※訳者注:日本では講談社から1996年に出版。
2.0デビューのこと
― 間もなく2.0モデルがデビューしますね。制作の裏側や、モデルのアップデートを決めた理由を聞かせてください。
ノイラ: モデルは3年近く変えていなかったので、そろそろだなと思ったんです。今のVTuberモデルってすごく表情豊かに動くので、思慮深さとか大人っぽさを表現できるモデルが欲しかったんです。
ただ、前のモデルも好きだったので、大きくは変えずに「シンプルでも映えるデザイン」にしたいとお願いしました。

LeKaleさんは本当に完璧に仕上げてくれました。彼女のアートスタイルは本当に美しいんです。特に海の耳や尾を描いてくれたときに「海の水をできる限り綺麗に描いたよ。リギングは後で考えるけど!」って言ってくれたの覚えてます。私が欲しかったモデルのイメージを本当にわかってくれていて、お披露目するのが楽しみです!
―ちなみに、キャラ的にお気に入りのドリンクがいくつかありますよね。その中で本当に自分を体現していると思うのは?
ノイラ: ふだん一番よく飲むのはウイスキーですけど、自分を表すなら……赤ワインだと思いたいです。長く生きてきたからこそ、「私、いいワインみたいに熟成してる」って思えたら少し安心できるんですよね。
より多様なコンテンツを求めて
― 配信・ショート動画・ハイライト動画とさまざまな形式に挑戦しているあなたは、いわば「ルネサンス・ウーマン」と言えるかもしれません。そこまで多様なコンテンツを届けようと思う原動力は何でしょうか?
ノイラ: あら、「ルネサンス・ウーマン」なんて呼んでくれてありがとう(笑)。半分はふとした創作のひらめきや“シャワー中の思いつき”からで、もう半分は今あるコミュニティをもっと育てたいという気持ちからですね。
私の理想のコミュニティは、いい雰囲気で、優しくて、思慮深い会話ができる場所です。今のタイドリングのみんなはまさにそういう存在なんですが、それをもっと多くの人と共有できたら素敵じゃないですか? それを楽しみに日々活動しています。
― 将来を見据えた、今後数年間の展望をどう考えていますか?
ノイラ: VTubingの映像表現の可能性をもっと広げたいですし、「VTuberは本当に何でもできる」ということを示したいですね。インターネットのアニメ女子が哲学を語っているなんて、誰も想像しないでしょう?
それと、いつかは3Dモデルも欲しいです。3Dでなら、きっと美しい画をたくさん作れそう!
― 最後に、コンテンツの幅を広げたいと思っているインディーVTuberにアドバイスをお願いします。
ノイラ: 新しいことに挑戦するのを恐れず、VTuberとして自分の好きなことを表現してみてください! 誠実さや努力、そして自分らしさを大切にすることが大きな成果をもたらすと私は信じています。
私のお気に入りの言葉のひとつを紹介しますね。
「あなたが何かを望むとき、宇宙全体がそれを叶えるために手を貸してくれる」 – パウロ・コエーリョ『アルケミスト – 夢を旅した少年』より(※)
※訳者注:日本ではKADOKAWAから1997年に出版。
ちなみに、ノイラはマネージャーのヴィン(Vin)とともに「Zone Check One」を共同設立しており、単発のコンサルティング案件やブランド戦略提案、タレントのプロジェクトマネジメント、コンテンツ制作支援などのサービスも提供している。
2.0デビューを目前に控えながら、今回の急なインタビューに快く応じてくれたノイラに心から感謝します。
ノイラのコンテンツはYouTubeとTwitchでチェックでき、X(Twitter)、Reddit、TikTokもフォロー可能です。その他、公式Discordサーバー「The Deep Blue」にも参加できます。
※当翻訳記事のサムネイル画像および記事中画像は、Noira公式サイトの画像とYouTube動画から作成しました。