「より民主化が進んでいる」。Twitchのアジア太平洋地域担当コンテンツディレクター、VTuberの成長について語る
「アジア太平洋地域におけるVTuberの成長」「より簡単にVTuberになれるようになったこと」、そして「TwitchがVTuberにとってどのような役割を果たしているか」について、Twitchのアジア太平洋地域担当コンテンツディレクターであるルイス・ミッチェル氏がインタビューに答えた。
By Andrew Amos (2023/10/6)
Twitchがライブ配信の代名詞であることを考えると、何千人ものVTuberがそこに居場所を見つけたのも不思議ではない。
VTuberのルーツはYouTube動画(事前に録画された動画)だが、VTuberの放送時間が長くなったのは2018年、ホロライブとにじさんじによる配信ブームがきっかけだった。新型コロナウイルス(COVID-19)が蔓延するころには、VTuberのライブ配信は日本だけでなく世界に広く根付いた。
Twitchのアジア太平洋地域(Asia Pacific、APAC)担当コンテンツディレクターであるルイス・ミッチェル(Lewis Mitchell)氏は、この成長を注視してきた。日本・東南アジア・オセアニアの市場を担当し、その進化をリアルタイムで見てきた。彼は、バーチャルコンテンツクリエイターがライブ配信で果たす役割と、彼ら/彼女らが満たすニッチな需要に注目している。
そしてそこから彼が得た最大の学びは、現在のVTuber活動(VTubing)と、10年前、まさに普及し始めたころのライブ配信との類似点だ。つまり、「クリエイターにツールを提供し、クリエイターが活動しやすくすれば、そのコンテンツは繁栄する」ということだ。
「VTuberは日本発祥ですが、現在とはまったく異なる状況でした」とミッチェル氏はPAX AUS 2023のイベントで語った。「VTuberの世界は、ホロライブやにじさんじをはじめとする数社でほぼ占有されていました。彼らは現在もVTuberのIPやブランドを所有しています」。
「しかし、なんでもそうですが、テクノロジーがより使いやすく、より安価になれば、技術に長けていない人でもツールを使えるようになります。ライブ配信というコンテンツが始まったときと同じです。ライブ配信も当初はハードルが高く、お金もかかりました。
VTubingが今どうなっているかというと、アクセスしやすくなったことで、より民主化されました。デジタルのアバターを使うことを除けば、顔出しで配信する普通のストリーマーと同じです。
VTubingがこれほど成長したことをとてもうれしく思っています。以前は『自分の声で配信して視聴者と交流はしたいけど、顔までは出したくない』という葛藤がありました。それがVTubingにより、もう少しプライベートを伏せた状態でも配信上で表現できる方法が手に入るんです」。
前述のツール、少なくともTwitchが提供するツールは、プライバシー上の安全とファンとのコミュニケーション、その両方を実現する。
Twitchで頻繁に開催されるスポットライト月間にVTuberを参加させるのもひとつの方法だ。例えば、プライド月間には人気VTuberの特集がある。あるいは、オセアニアのVTuberを多数起用した『Diablo IV』キャンペーンのようなプロモーション企画もある(Twitch自身が主導しているわけではないが、VTuberを起用することで何ができるかを示す事例である)。
Here’s another sneak peek at @vividlyASMR’s hellish new Vtuber model as part of the upcoming #DiabloIV Early Access stream. Tune in on 4 June to watch her and the other #TeamLilith Vtubers make their debut as servants of the Blessed Mother 🙏😈 pic.twitter.com/bttKHn9zAH
— Blizzard ANZ (@Blizzard_ANZ) May 26, 2023
配信者の意見に耳を傾けることも大切だ。ミッチェル氏は、配信者のフィードバックがすべての人にとってより良い体験をもたらした取り組みのひとつとして、ふだん感謝されることの少ないコミュニティモデレーターのサポートを目的とした、Twitchの新しいモデレーターツールを例に挙げた。
「安全ツールを作り、配信スペースを安全にするという基本に立ち返ります。コミュニティが自分たちの望む形で交流できるようにすること、そしてコミュニティに迷惑なユーザーが入ってこないと感じられるようにするためです」。
VTuberのコミュニティからは、VTuberがTwitch内でのけ者にされることについて懸念の声が上がっている。今でもVTuberに付きまとう偏見と同様、コンテンツモデレーションは大きな懸念事項だ。
ミッチェル氏は、VTuberをパートナー限定イベントに参加させることで、少なくともオセアニア地域ではこの問題を打破しようとしてきた。VTuberと実写系配信者があたかも同じ空間にいるかのような形でコラボするのがそれだ。
それにより、ファンは「バーチャル空間を飛び出したVTuber」のコラボを目にすることになる。その理想的な例としてConnor ‘CDawg’ Colquhoun とIronmouseのコンビがよく挙げられるが、同様のことがコミュニティ全体でもっと小さなレベルで起こっている。
「VTuberは新型コロナウイルスの時代に台頭してきたもので(それ以前はTwitchの非常にニッチなカテゴリでした)、当時、私たちは誰とも直接会えませんでした。そこで私たちはVTuberも含めて、どうやったら人々がまた顔を合わせられるようになるかを考えていたんです。
今回のPAXのような、多くのファンやコミュニティメンバーがいるイベントでの課題は、自分のことを発見されたくない場合があるということです。自分の顔を見られたくない。
何人かのグループで一緒にいると、『あの人は知ってる。あの人も知ってる。でもあの人は誰だろう』というような感じになります。『大変だ、私が誰だかみんなにバレてしまうかもしれない』と思って、ちょっと怖くなることがあるかもしれません。
私たちは今年、配信者ネットワークのためのイベントを開催していて、その地域の配信者全員を招待しています。配信も放送もされないイベントなので、招待された人たちも参加しやすいと感じるでしょう。私も安心していろんな参加者に会いに行けます。私たちはこうした、配信者同士が出会うための機会を用意します」。
結局のところ、こうしたつながりがあってこそ配信者は長期にわたって活動を続けることができ、誰もが楽しめる素晴らしいコンテンツを生み出せるのだとミッチェル氏は考えている。
「重要なことのひとつは、長く続けている配信者たちを見ると、彼らはみんな他の配信者と出会い、つながりを持っている人たちだということです。それは彼らに『自分はもっと大きなものの一部であり、一人でPCのモニタに向かって話しているだけじゃないんだ』という感覚を与えてくれるんです」。
※この翻訳記事のサムネイル画像は、筆者がTwitchアプリのスクリーンショットから作成しました(元記事内のイメージ画像とは異なります)。