東京大学ら、Vライバー193名のメンタルヘルス調査を発表。アバターとの関係性を4つのタイプに分類

東京大学の研究者らは、Vライバー193名を対象に、アバターとの関わり方とメンタルヘルスの関連を調査した研究成果を発表した。

研究にはVRデジタル療法を開発するBiPSEEが参画し、Vライバー事務所「bond」の協力のもと実施。分析の結果、アバターとの関係性は「緩衝型」「融合型」「演者型」「継承型」の4つの統計的プロファイルに分類され、自己表現の広がりと心理的負担が、それぞれ異なる形で共存していることが示された。

研究成果はヒューマン・コンピュータ・インタラクション(HCI)分野の国際会議「HCI International 2026(HCII 2026)」(2026年7月26日~31日)でオンライン発表された。

Vライバー193名を対象に調査

図1:Vライバー193名を対象とした調査の概要

調査対象となったのはbond所属のVライバー193名で、日本在住168名、海外在住25名が参加。研究では以下4つの観点から、アバターとの関係性を分析した。

  • アバターへの同一視
  • 理想化されたアバター
  • 演技(ロールプレイ)傾向
  • 本当の自己の表現

さらに、自己表現や自己開示に加え、PHQ-9による抑うつ症状・役割葛藤・アイデンティティ葛藤・罪悪感・自己概念の明瞭性・自己効力感なども測定。潜在プロファイル分析(LPA)などの統計手法を用いて関連性を分析した。

なお、本研究は東京大学の倫理審査委員会の承認を受けて実施されている。

アバターとの関わり方は4つのプロファイルに分類

分析の結果、Vライバーは次の4つの統計的プロファイルに分類された。

図2:本調査で見いだされた4つの統計的プロファイル。棒グラフは類型化に用いた4指標の標準化得点を示す

緩衝型(Buffered Self):42名 

アバターへの同一視や理想化、演技傾向はいずれも低く、「本当の自己」の表現は平均的だったグループ。役割葛藤や罪悪感などの心理的負担は比較的小さい一方で、自己表現や自己開示も相対的に低い傾向が見られた。

融合型(Fusion):43名 

アバターへの同一視、理想化、演技傾向のすべてが高いグループ。自己表現・自己開示は4グループの中で最も高かった一方、役割葛藤や罪悪感、抑うつ症状の指標も比較的高い結果となった。

演者型(Puppeteer):31名 

演技(ロールプレイ)傾向が突出して高いグループ。自己表現は一定水準にあるものの、自己開示は低く、役割葛藤や罪悪感は緩衝型より高い傾向が確認された。

継承型(Inherited Self):77名 

「本当の自己の表現」が最も高かったグループ。自己開示も高かった一方で、役割葛藤やアイデンティティ葛藤、罪悪感などの心理的負担が完全になくなるわけではないことが示された。

自己表現と心理的負担は単純な二項対立ではない

研究では、アバターを介した活動は自己表現を広げる可能性がある一方で、心理的負担も同時に存在し得ることが明らかになった。

例えば融合型では自己表現が最も高かったものの、役割葛藤や罪悪感、抑うつ症状も相対的に高い傾向を示した。また、継承型でも自己開示が高い一方で、役割葛藤やアイデンティティ葛藤が確認されており、「自己表現が豊かであれば心理的負担が少ない」といった単純な関係ではないことが示されている。

一方、配信活動を始める前と比較した主観的なメンタルヘルス改善感については、4つのプロファイル間で有意な差は認められなかった。

自己概念の明瞭性や自己効力感との関連も分析

研究では心理的資源との関連についても検討された。

自分自身をどのような人間であるか明確に認識できている「自己概念の明瞭性」は、抑うつ症状や役割葛藤、アイデンティティ葛藤、罪悪感の低さと関連していた。また、「自己効力感」は自己表現や自己開示、主観的な改善感との正の関連が確認された。

研究チームは、こうした心理的資源がVライバーのウェルビーイングに関わる可能性があるとしつつも、支援方法の有効性については今後の介入研究で検証が必要としている。

研究チーム「支援環境づくりにつながる知見に」

東京大学の小柳陽光特任研究員は、アバターを介した活動には自己表現を広げる可能性がある一方、キャラクターや役割を維持することによる葛藤や罪悪感が生じる可能性があるとコメント。

またBiPSEEは、VRデジタル療法の研究を進める立場から、アバターの治療的可能性だけでなく心理的負担についても実証的な理解を深める重要性を強調した。

共同研究に協力したbondも、所属ライバーが安心して長く活動できる環境づくりへ今回の知見を活用していく考えを示している。

なお研究チームは、本研究は特定事務所に所属するVライバーを対象とした横断調査であり、因果関係やVライバー全体への一般化を示すものではない点を強調している。また、4つのプロファイルは個人を診断・分類するものではなく、研究上の統計的傾向として扱うべきだとしている。

筆者の見解

まず、こうした調査・研究が行われるようになったこと自体がVTuber・Vライバーの広がりを感じさせます。

VTuber・Vライバーのメンタルヘルスというと、どうしても誹謗中傷や激化する配信競争と話題に寄りがちですが、アバターを通じて活動することが演者の心理面にどのような影響を与えるのかを定量的に分析した今回の研究は、演者自身やVTuber・Vライバー事務所だけでなく、視聴者にとっても学ぶところが多そうです。

また、この研究結果はVTuberやVライバーだけでなく、例えばVRChatやclusterなど、アバターを使用するソーシャルプラットフォームやコミュニケーションツールのユーザーにとっても参考になるかもしれません。

同研究は学会でのポスタープログラム&オンライン発表だったため、現時点では全文を読むことはできませんが、もし今後公開されることがあればぜひ入手したいと思います。


【出典:PR Times