本記事はVRChatについて自分が感じていること・考えていることをとりとめなく書き連ねたものです。あなたにとって有意義な情報はないかもしれません。あらかじめご了承ください。
現在のVRChat
VR空間でコミュニケーションを楽しめるソーシャルVRアプリ『VRChat』。ユーザーは3Dアバターを身にまとい、多人数で会話やゲーム、イベントなどを楽しむことができます(SteamおよびMeta Quest 1/2/Pro対応、いずれも無料。スマホ版(Android)もオープンベータ版が利用可能)。
2017年のサービス開始から着実にユーザー数を増やしてきましたが、昨今話題の“メタバース”にもっとも近いサービスのひとつと目されていることもあってか、この1年ほどは利用者の伸びが加速しています。
Steamでは利用実績(同時接続者数)のデータも公開しています。ただし上記はSteamのみの数字で(デスクトップモード・VRモード合算)、実際にはこれにMeta Quest 1/2/Proのスタンドアロン版ユーザーも加わります。
自身もVRChatユーザーであるTony_Lewis氏の分析によると、Quest版も含めた同時接続者数は2万~8.5万ほどのようです。また、同氏は分析のなかでVRChatの全世界総プレイヤー人口を340万人ほどと推定しています(2022年5月末時点)。
ソーシャルVRに属するアプリ・サービスではVRChat以外にも
・Horizon World(Meta、日本でも2024年6月末から利用可能に)
・AltspaceVR(マイクロソフト、2023/3/10でサービス終了)
・Neos VR(Neos Metaverse)(Solirax) ※実質終了
・Resonite(Yellow Dog Man Studios) ※Neos VRの後継
・cluster(クラスター)(Cluster、スマホにも対応の国産アプリ)
・My Vket(HIKKY、2022年12月β版開始の国産サービス)
などがありますが、これらと比較するとユーザー数は格段に多いです。
こうした状況もあり、VRChat内に常設のワールドを設置したり、大規模イベントを開催する企業も少しずつではありますが出てきています。
【企業主催のVRChatワールド・イベント事例】
・VIVE Wonderland(HTC)
・NISSAN CROSSING(日産)
・Virtual Market 2022 Winter(HIKKY)
・SANRIO Virtual Festival 2023(サンリオ)
VRChat「デスクトップモード」の落とし穴
そんなVRChatですが、人気の高まりを受けて、Webでの紹介・入門記事や、SNSでの活動報告・感想などを見かけることが多くなりました。もちろん、自ら積極的に関連情報を取りに行っているからというのも大きいのですが。
私自身も低接続ながらVRChatユーザーではあるので、「少しはVRChatを知っている」と言えると思っていますが、そんな私から見て、Webでの言説に対して「ん?」と思うことがたまにあります。
例えば、VRChatを薦める際の文句のひとつとして「VRChatには『デスクトップモード』があるので、Windows PCがあればVRヘッドセットがなくても遊べる」というものがあります。
たしかに事実ですが、実際にはVRChatのデスクトップモードには以下のような課題・問題があります。
(1) 必要・推奨スペックの問題
たとえデスクトップモードであっても、VRChatを快適にプレイするにはそれなりのPCスペックが必要です。VRChatはソーシャルVRアプリなので、「ギリギリ動く」というレベルでは快適なコミュニケーションはできません。
また、後述する(3)の問題もあるので、「デスクトップモードならそれほどスペック高くなくても大丈夫だろう」と考えるのは早計。VRChatを遊ぶにあたってPCの新規購入/買い替えまで検討している人は特に注意が必要です。
参考までに、2022年時点でのVRChatの最低/推奨環境は以下のとおりです。ただしこちらはVRモードに関してのものなので、デスクトップモードは「動かすだけなら」もう少し低スペックでも動作する可能性はあります。
とはいえ先述のとおり、他ユーザーとのコミュニケーションがキモであるVRChatでは、PCのスペックがプレイ体験の質に直結することは覚えておいたほうがよいでしょう。
最低 | 推奨 | |
---|---|---|
OS | Windows 8.1 / 10 | Windows 10 |
CPU | Intel i5-4590 / AMD FX 8350 相当以上 | Intel i5-6500 / AMD Ryzen 5 1600 相当以上 |
メモリ | 4GB RAM | 8GB RAM |
グラフィック | NVIDIA GeForce GTX 970 / AMD Radeon R9 290 相当以上 | NVIDIA GeForce GTX 1060 / AMD Radeon RX 580 相当以上 |
DirectX | Version 11 | Version 11 |
ネットワーク | ブロードバンドインターネット接続 | ブロードバンドインターネット接続 |
ストレージ | 21.5GB(アプリ1.5GB、コンテンツキャッシュ20GB) | 21.5GB(アプリ1.5GB、コンテンツキャッシュ20GB) |
(2) UIの問題
VRChatはもともとVRモードでプレイすることを前提にUI設計されているため、デスクトップモードだとやや操作しづらい面があります。2022年秋の「UI 2.0」アップデートでVRモード/デスクトップモードともにUI改善が図られましたが、デスクトップモードのUI最適化は今後のロードマップに入っていません。
ユーザー側で対応できる改善策としては「ゲームコントローラを繋いで遊ぶ」という手段があります。ただしこの場合もコントローラの操作ボタン割り当て(キーバインド)が必要なので、コントローラの準備と合わせてやはり手間がかかります。
UIに関してさらに言えば、これはデスクトップモード・VRモード共通の問題ですが、VRChatの対応言語は(今のところ)英語のみなので、「英語が苦手なユーザーにとってはそれだけでハードルが一段上がる」という点にも留意する必要があります(※1、※2)。
※1: 2023/2/9の開発者ノートにて、ツールチップ(カーソルを合わせた時に出る注釈テキスト)の多言語化に着手したことが報告されています。
※2: 2024年5月にUIのローカライズが本番環境に実装され、メニュー周りは日本語表示可能になりました。
(3) VRデバイス移行時の問題
そして(3)ですが、デスクトップモードで遊んでいるうちに本格的にVRChatにハマり、「VRヘッドセットでプレイしたい」となった場合、VRヘッドセットぶんの追加費用が生じることになります。
PC接続型のVRヘッドセット(PC VR)に求められるPCスペックはそれなりに高いので、もし「いずれはVRヘッドセットで遊ぶかも」という可能性があるなら、(1)とも関連しますが、PCも最初からそれに見合ったスペックのものを用意しておいたほうがよいでしょう。
ちなみにグラフィックボード(GPU)で知られるNVIDIAは、VRコンテンツをプレイするのに適したスペック規格「VR Ready」を提唱しています。NVIDIAが独自に定めている規格なので「これ以外/これ以下だと絶対に動かない」というわけではありませんが、参考にしてみてください。
いずれにせよ、「デスクトップモードならそれほどハードルは高くない」と考えるのはちょっと危険かもしれないし、他人に薦めるなら素直にVRモード前提の環境を提示してあげたほうがいいのではないか、と個人的には考えます。
もっとも安価にVRChatを遊べるのはMeta Quest 2
2024年8月現在、VRChatをもっとも安価にプレイできるのはVRヘッドセット「Meta Quest 2」です(税込3万1900円、128GB)。機器のセットアップにスマートフォンが必要ですが、大半の人はスマートフォンを持っているだろうということで初期コストにはカウントしません。
価格面では有利なQuest 2ですが、一方でQuest版VRChatはハードウェアの性能上、訪問できるワールドに制限があったり、アバターのサイズ(ファイル容量)に制限があったりなど、VRChatのすべてを楽しめる選択肢ではありません。
が、VRChatがソーシャルVRであり、「VR空間での臨場感のあるコミュニケーション」が特長であることを考えると、VRChatの真価により近づけるのはWindows PCのデスクトップモードよりもQuest版のほうなのではないかと考えます。
Meta Quest 2であればVR ReadyのPCと組み合わせてPC VRとしても使えますし、Meta Quest 2の普及を受けてか、現状ではQuest対応のワールドやアバターもかなり増えてきています。
ちなみに、Quest 2と同じスタンドアロン型でかつQuest 2よりも安いVRヘッドセットとしてPICO 4がありますが、2023年9月時点でPICO 4はデバイス単体でVRChatをプレイすることはできません(PCと接続してSteam版をプレイすることは可能)。
VRChatの魅力の伝え方
SNSやブログなどでVRChatの情報を積極的に流している人は、大きく2タイプに分かれるような気がしています。
(1) 自身の楽しみをひたすら追及している人
このタイプはVRChatにどっぷりハマっている個人であり、中にはワールド/アバター/エフェクト/ツールなどのクリエイターや、VRChatのワールド内で活動するパフォーマーやアーティストもいます。
また、そうしたクリエイターの類でないにせよ、アバター素体やアバターに着せるファッションアイテムを大量に購入・保有していたり、アバターのちょっとした改変くらいなら自身でサクサクやってしまう人も多いという印象です。
このような人たちはVRChatのプレイ環境構築への投資を惜しまないので、そのプレイスタイル・消費スタイルは初心者にはなかなか真似できないと思います。
なんなら彼/彼女らは初心者に対してすら「VRChatを楽しむためなら投資は当然だよね?」くらいの勢いで高スペックPCやらVRヘッドセットを薦めてきたりします。初心者にとってはQuest 2の3~4万円ですらかなり勇気のいる出費だというのに……。
なので、初心者はこうした人たちに対しては「極めればこんなことまでできるんだ」と横目で眺めつつ、自分の目的を超えた過剰な投資(お金・時間)はしないように注意するとよいでしょう。
逆にすでにどっぷりハマっている人はVRChatの“上限”を周囲の人に知らしめつつ、自身のやっていることが今はまだニッチであることを常に意識しておくとお互い幸せになれるような気がします。
(2) VRChatの普及に重きを置いている人
VR専門メディア/“メタバース”専門メディア(組織・個人問わず)に多く見られるタイプ。初心者にもわかりやすく、基本的なことから丁寧に語っている印象があります。
ですが、そうしたメディアですら「そもそもVRChatは敷居が高いもの」を当然の前提としすぎていたり(敷居が高いのは実際そのとおりですが)、マニアックな方向に進みすぎたりして、初心者おいてきぼりな記事や動画が多くなっている印象を受けます。
もし私がこちらのスタンスでVRChatを他人に薦めるとしたら、
・最初に薦めるハードはMeta Quest 2
・Meta Quest 2でも行けるワールド/使えるアバターを中心に紹介
・英語が苦手なユーザーをサポートするようなコンテンツを提供
・初心者とヘビーユーザーを繋ぐコンテンツの企画・提案
・初心者にとって難易度が高い作業を代行してくれるサービス・ツールの紹介
あたりをやるでしょう。そしてクリエイターに対しては
・Meta Quest 2対応ワールドを増やしてほしい
・Meta Quest 2対応アバター(衣装・アクセサリ含む)を増やしてほしい
あたりをリクエストすると思います。
まとめではないが結論的なもの
ここまで長々とVRChatについて書いておきながらこう言うのもなんですが、個人的には「ソーシャルVRとかメタバースとか言われたら、とりあえずVRChatを薦めておこう」という今の空気にちょっとした不安のようなものを感じています。
アクセスのしやすさやプレイの続けやすさにおいて、現状ではclusterのほうが上回っているのではないかというのが個人的な印象です。あるいは現在開発が進んでいるMy Vketでもいいかもしれません。どちらも国産サービスなので応援したい、という気持ちも含まれていますが。
また、日本でも利用可能になったMeta Horizon Worldsも、Meta Questがあればすぐ利用可能なことや、ユーザー母数の多さは無視できません。2024年8月時点ではまだ日本人向けのワールドやコンテンツは少ないものの、今後の動きは要注目でしょう。
結局のところ、遊びたいコンテンツや一緒に遊びたい人がVRChatにしかない/居ないのであればそこに行くしかないわけですが、けっしてハードルが低いとは言えないVRChatがファーストチョイスになると、つまずく人が少なからず出てしまうのではないかなと。杞憂かもしれませんが。
VRChatの普及がさらに加速するタイミングがあるとすれば、それは2023年に発売のMeta Quest 3が登場するときでしょう。Quest 3は当然Quest 2よりも高性能なので、スタンドアロン版VRChatでもできることが増える可能性もあります。ハードウェア自体も小型軽量化しそうなので、プレイのしやすさも向上するはずです。
そんなわけで、「今すぐでなくてもいいのなら、まずはclusterやMy VketでソーシャルVRに慣れ親しみましょう。そしてQuest 3が来たらVRChatにも触れて、それらの中から気に入ったものをメインにしましょう。ガチでVRChatを楽しむためのPC購入を検討するのはそれからでも大丈夫です」というのが現時点での私のアドバイスです。
【補足】VRChatの歴史
VRChatのアプリリリースから最新のできごとまでを一覧にした記事はこちら。