望実ルル:フィリピン最古のカトリック系大学で生まれた妖怪VTuber
「聖トマス大学の文化にはまったく関心がなかったんです。でも、ルルになる機会を得てからしだいに大学への感謝の気持ちが生まれて、今では大学の良さがもっとわかるようになりました」。
By VTuber NewsDrop編集部 (2025/3/5)
望実ルル(Nozomi Ruru)のデビュー配信告知がX(旧Twitter)に投稿されると、VTuberファンの注目を集めた。多くの人が「なんであの聖トーマス大学(University of St. Thomas、UST)にVTuberがいるんだ?」と疑問に思ったのだ。
2月5日のデビュー配信で、望実ルルは自身を優しい妖怪(精霊)と称した。彼女はトーマス日本協会(Thomasian Nihon Kyoukai、TNK)のスタッフとメンバーに感謝の気持ちを表すために、協会の部屋を掃除する存在なのだという。TNKはUST公認の団体であり、日本の伝統文化と現代文化の普及を目的としている。
デビュー配信での彼女の明るく元気な様子から、VTuberコミュニティは彼女を温かく迎え入れた。
デビュー配信や続くQ&A配信でルルはさまざまな質問に答えたが、すべての質問に答えきれたわけではない。そこでVTuber NewsDrop編集部は、TNKのクリエイティブディレクターであるジュちゃん(Juchan)と望実ルル本人にインタビューを行い、ファンが気になっている疑問をさらに深掘りした。
ルルの構想を誰も知らなかった
TNKがVTuberを持つことになった経緯について、ジュちゃんはこう振り返る。
「当時の執行部メンバーが『TNKもVTuberを持ったらどうだろう?』って言い出したんです。当時はみんなホロライブにハマっていたし、今でもそうだと思います。それがあって少しずつ計画を進めるきっかけになりました」。
この話が持ち上がったのはジュちゃんがTNKに加入する前のことだった。プロジェクトの発案者であり、当時のTNKメンバーだったマイク(Mike)が裏で準備を進めていたという。
「もうひとつの理由としては、ちょうどその頃はコロナ禍の時期で、組織として何かをしないといけなかったんです。コロナの影響でTNKは存続の危機にありました。イベントがほとんどできず、活動を再開するのに苦労していましたから」。
コロナ禍によるイベント不足、そして組織の存続をかけた試みとして、ルルは希望の光となったのだ。
「要するに、執行部メンバーの純粋な興味から始まったんです。最初は冗談みたいな話でしたが、気づけば本当に実現していました」とジュちゃんは語る。
「正直なところ、こんなに注目されるとはまったく予想してなかったし、デビュー配信があんなに盛り上がるとも思わなかった」と、ルル自身も驚きを隠せない。
「そもそも、基本的にルルの役割は協会のイベント司会者なんです。例えば大学全体のイベントでも、TNKが関わるものに登場する程度でした。
デビューの数日前に台本を受け取ったんです。基本的にはルルのデビューについてのおさらいでした。でも、いざSNSに投稿したら『なんでUSTがVTuberを?』みたいな反応があって……。
たぶん、USTがカトリックの大学で、しかも教皇庁立大学なのを考えると、VTuberの存在は意外だったんじゃないかな。私たちの大学はとても保守的なので。
でも、最初の時点では本当に誰もVTuberプロジェクトのことを知らなくて。たぶん、スタッフや団体メンバーくらいしか把握してなかったと思います」。
「3年かけて作り上げた作品」

コロナ禍以前、協会の部室を開け閉めする人がいた。彼は最初に部室に到着し、最後に出ていく人だった。
「つまり、部室を掃除していた人です」。その人物がTNKの掃除妖怪VTuber・ルルのキャラクター設定に影響を与えたとジュちゃんは振り返る。
「ルルのキャラクターや設定を決めるにあたっては、企業勢・個人勢問わず、地元のVTuberや有名なフィリピンのVTuberからも影響を受けています。あとはアイドル文化も少し取り入れています」。
ルルが誕生するまでには足かけ3年、デビューには1か月かかっている。
「事前にすべてを準備する必要がありました。台本や広報用の資料、その他すべてです。また、ルルのコンセプトを作り、プロジェクトを始めたマイクに、ルルの使用許可を正式に依頼する必要もありました」と、ルルのデビュー配信の責任者としてジュちゃんは語った。
デビュー準備は12月の最終週から翌年1月の最初の週にかけて進められた。
「とにかく事前承認が必要でした。例えば、配信内容についても慎重に検討する必要がありました。なぜなら、私たちはUSTの名を背負っているからです」。
「私たちは学術機関の一員として、発信する内容には細心の注意を払っています。USTの価値や評価を損なわないようにするためです」とジュちゃんは付け加える。
「配信当日の16日前までに資料を提出する必要もありました。デビュー配信に必要なもろもろ、例えばキャラクター紹介動画やその他の素材などが用意できたのはギリギリのタイミングでした」。
それでも、準備期間が短かったにもかかわらず真剣に取り組んでくれたクリエイティブチームには感謝しているとジュちゃんは言う。
望実ルルの役は、応募して勝ち取ったものだった。
「オーディションを受けました。正直、何人が応募していたのかはわからないけど、選考プロセスはかなりシンプルでした」。
「企業の選考と同じような感じです。Googleフォームがあって、そこにプロフィールや経験を記入して、指定されたセリフを読んで、チームの求める雰囲気に合っているかを判断するというものでした」。ジュちゃんから“話してOK”と確認を取ってから、ルルはそう振り返る。
2次選考では協会の執行部による面接もあった。その際にTNK公式VTuberとしての役割について詳しく説明を受けたという。
デビュー配信でも話していたように、ルルは星街すいせいのコンテンツを楽しんでおり、ホロライブのタレントや、Kaheru Orangeのような地元のVTuberの大ファンでもある。
「実は、ルル役に決まるずっと前からVTuber文化にはかなり詳しかったんです。だからこの仕事は自分の興味とぴったり合っていると思いました」。
TNKと大学の宣伝におけるルルの役割

後になって、ルルの存在をSNSで広めた人物のひとりが、ルルのデビュー制作に携わったアーティストであることがわかった。それでも、予想外の注目を浴びたことでTNKはルルとともに未来を見据えるようになった。
「私たちが提供できるのは、大学を象徴するコンテンツであるだけでなく、本質的に楽しくてエンタメ性のあるもの、いい言葉が見つからないのですが、“seiso(清楚)”なものだと思います」とルルは説明する。
「USTの名を負っていることを考えると、実際に何を出せるかはわかりません。でも、ルルをデビューさせた理由は協会のプロモーション、そして結果的には大学のPRにもつながると思ったからです」と彼女は言い切る。
ジュちゃんは「今後のコンテンツも事前に計画を立ててはいますが、確約できるものはありません。現状ではまだ流動的なんです」と説明する。
ルルはデビュー前に抱いていた予想について語った。
「ルルの主な役割は、協会のマスコットVTuberになることだと思ってました。オーディションを受けた時も、“これは地味な活動になるだろうな”と思ってたんです。でも、今起きていることは全然違いました」。
また、TNKのマスコットであることを辞めるつもりはないとも断言する。
「望実ルルは、今や協会のアイデンティティの一部になってますからね」。
「望実ルルになることで、USTでの学生生活をより価値あるものと感じるようになったか」との問いに、ルルはこう答えた。
「はい、そうですね。例えば、世紀の門(※)に関する迷信とか、USTには色々な文化があります。そうした小さなエピソードを他の学生と共有できるのは嬉しいです」。
「以前はUSTの文化についてほとんど気にしてなかったんです。でも、ルルになる機会を得てから、USTに対する愛着が深まりましたね。Q&A配信でもUSTの魅力をたくさん語りましたし、VTuberデビューを許可してくれたUSTにはとても感謝してます」。
彼女はTNKにも感謝しているという。
「ここで支えてくれるみんなにもとても感謝しています。ある意味でUSTのことをもっと深く知ることができたと思います。
また、USTの入試を受けようとしている人や、USTに興味を持ってくれた人には特に感謝しています。デビュー配信やQ&A配信でそれが伝わっているといいんですけど。
もちろんそれ以外の人も、USTの学業以外の部分がどのようなものかを垣間見ることができると思います」。
「ルルとしてデビューできてとても嬉しいです。でも、まさかここまで注目されたり、盛り上がったりするとは予想していませんでした。
正直なところ、圧倒されています。でも、この先どうなるのか、とてもワクワクしています。少し不安もありますが、全体としては本当に嬉しいです」と、ルルはここまでの出来事を語っている。
彼女にとって、事態がここまで大きくなるのは予想外だったようだ。
「最初の仕事は、ただのマスコットとしてイベントの司会をするだけの存在でした。まるで妖怪のように、イベント中に“現れて、消える”だけのはずだったんです。それが今はここまで成長しました。これからも全力を尽くします。でも繰り返しますが、何かを確約することはできないです」。
※世紀の門:聖トーマス大学敷地内の広場にある凱旋門。卒業前に門から退場すると、その学生は除名されるという都市伝説があるらしい(訳者注)。
※この翻訳記事のサムネイル画像はThomasian Nihon Kyoukaiの動画サムネイルから作成しました。