株式会社TRACKS代表取締役・宮川雄一氏がVTuber NewsDropのインタビューに応じ、サービス名称変更の背景や海外エージェンシーとの提携、現在および今後の取り組みについて語った。
By Jay Agonoy (2026/10/1)

VTuberに長く親しんできた人なら、かつて兎田ぺこらがマインクラフト配信で使っていたテーマ曲を知っているのではないだろうか。あるいは、赤井はあとが何かを企んでいるときに流れている曲や、雑談配信(Just Chatting)で使われているBGMも耳にしたことがあるかもしれない。
これらの楽曲をはじめ、ほとんどのVTuber(そして一般のクリエイターも)は、DOVA-SYNDROMEがWebサイトで配布している楽曲を無料で利用している。
2026年3月には運営が法人へ移管され、株式会社TRACKSが運営を引き継いだ。そして9月15日、サービス名を「DOVA-SYNDROME」から「OpenTracks(オープントラックス)」へ変更。日本で発展してきたフリーBGM文化を海外のクリエイターにも広げるため、国際展開を本格化させている。
TRACKSの代表取締役を務める宮川雄一氏はVTuber NewsDropのインタビューで、名称変更の背景や海外VTuberエージェンシーとの提携、作曲家への支援、そしてOpenTracksが目指す将来像について語った。
クリエイターには印象に残るBGMが必要
クリエイターが動画などでBGMを使用することには、一定の需要がある。旅行の短いVlogであれ、長編ストーリーであれ、適切な音楽を選ぶことで動画の雰囲気を作り出すことができる。2026年4月に実施された調査でも、動画における音楽選びの重要性が示されている。
● クリエイターが楽曲を使用する場合、現在では基本的にYouTubeの厳格な著作権チェックを通過する必要があり、それは今後も変わらないと考えられる。例えば、かつてYouTubeの無料オーディオライブラリに追加され、広く使われていた楽曲があった。
● しかし、この曲は2019年に大規模な著作権申し立ての対象となった。権利者が「この曲は自らのライセンス楽曲のサンプルを使用している」と主張したためだ。
OpenTracks最大の強み
OpenTracksの前身であるDOVA-SYNDROMEは、創設者で作曲家の稿屋隆氏によって18年前に立ち上げられた。現在は1万9000曲を超えるBGMに加え、約1200種類の効果音(サウンドエフェクト)を取り揃えている。
その中の1曲、Sharou氏の『Morning』は2014年の公開以来、66万回以上ダウンロードされている。
ほかの音楽プラットフォームと差別化するうえで、OpenTracks最大の強みは何なのか。宮川氏は、無料BGMプラットフォームとしての方針について次のように語った。
「私たちは、音楽そのものの利用料をユーザーから徴収していません」。
また宮川氏によると、OpenTracksは2015年からYouTubeと直接連絡を取っており、自社の音楽の利用に関する問題が発生した際にも、より迅速に対応できる体制を整えている。
「約250人の作曲家が制作した1万9000曲以上のBGMと1000点以上の効果音を無料でダウンロード・利用でき、しかもこの規模で、こうした権利管理システムを備えたプラットフォームは、世界的に見ても珍しいと考えています」と宮川氏は付け加えた。
「無料で利用できること、豊富な楽曲を揃えていること、そしてYouTubeで安心して使えること。この3点がOpenTracksの大きな特徴だと考えています」。
VTuber事務所との提携
OpenTracksは最近、海外のVTuber事務所であるGlitch Stars、V4Mirai、Aegis-Link、Variance Project、VOGIとの提携を相次いで発表した。
OpenTracksがこうした提携を結ぶ狙いは何なのか。宮川氏によると、大きく分けて「安心」と「調査」の2つがある。
「ひとつは、海外のVTuberの皆さんに対して、OpenTracksは安心して利用できるサービスだと改めて知ってもらうことです。そのために、当社のチームと直接やりとりできる窓口、チャンネルのホワイトリスト登録、ライセンスについての質問へのサポートなどを提供します。
もうひとつは、運営者である私たち自身が、海外のVTuberの皆さんが実際にどのようにOpenTracksを利用しているのか、どのような問題に直面しているのか、そして彼らにとってサービスをより良くするにはどうすればよいのかを、直接学ぶことです」。
宮川氏によれば、OpenTracksはこれまで主に日本のユーザー向けだったため、海外ユーザーが抱える難しさを十分には理解できていないと考えているという。
「事務所さまとの提携を通じて、実際のユーザーから継続的にフィードバックを受け取り、それをサービス改善に役立てたいと考えています。よい機会があれば、ほかの事務所さまとの取り組みも引き続き拡大していきたいです」。
【 Partnership with DOVA-SYNDROME 】
— V4Mirai (@V4Mirai) August 18, 2026
Hello Classmates! We are excited to announce our official partnership with @dovatwi_en!
DOVA-SYNDROME is a beloved provider of royalty-free BGM, and we’re excited to be working with them more closely! pic.twitter.com/7WUr0liDXj
OpenTracksとVTuber文化の親和性
VTuberコミュニティについて、OpenTracksにとって特に魅力的な点は何なのか。
宮川氏は、OpenTracksが持つ3つの大きな特徴に加え、OpenTracksが提供する楽曲の「雰囲気」も大きな影響を与えていると考えている。
「OpenTracksには、日本のアニメやポップカルチャーを感じさせる楽曲や、よりリラックスした、いわゆる“ゆるい”雰囲気の楽曲が数多くあります。VTuber文化も日本発祥なので、こうした音楽との間には自然な親和性があると思います。実際、多くの日本のVTuberがOpenTracksの楽曲を利用しています」。
OpenTracksがVTuberを含む非常に幅広いクリエイターに利用されるようになることを、以前から予想していたのかという質問に対して、宮川氏は「私たちはずっとそうなることを願っていました」と振り返った。
「ただ、以前は日本国外のBGMユーザーにどうリーチすればよいのか、自分たちでも明確なアイデアを持っていませんでした。ここ3年ほどの間に、Xでの反応やYouTubeのコメントなどを通じて、海外ユーザーが徐々に増えていることに気づき、とてもうれしく思っています」。
同社は、海外での積極的なプロモーションを行っていなかったにもかかわらず、また多言語対応がまだ限定的であったにもかかわらず、海外のユーザーがDOVA-SYNDROMEを見つけて利用してくれたことを特に感謝しているという。
国内調査では、OpenTracksはVTuberだけでなく、一般のYouTuber・タレント・学校・政府機関・企業・広告主など、非常に幅広い用途で利用されていることがわかっている。
海外ユーザーのうち何人がこのサービスを利用しているのかについて、正確かつ十分な統計は持っていない。しかし、X(旧Twitter)やYouTubeで寄せられる反応、問い合わせ、Content IDの利用報告などから、VTuberコミュニティが非常に大きな存在感を持っていることは把握できるという。
作曲家に新たな機会を生み出す
TRACKSが掲げる目標のひとつに、「個人が自立して、自分自身の望む形で活動できる環境を作る」ことがある。そこには、こうした印象的でクリエイターにとって使いやすい楽曲を制作するアーティストを支えることも含まれている。
宮川氏は、日本には以前から「フリーBGM」の文化が存在すると説明する。
「日本では昔から、作曲家が自分のWebサイトやYouTube、その他のプラットフォームを通じて、自作のBGMを無料で公開し、動画クリエイターなどが自由に利用する“フリーBGM”の文化がありました。OpenTracksは、その文化の中でも最大級のプラットフォームのひとつです」。
参加している作曲家の多くは本業を別に持っており、趣味やクリエイティブな活動の一環としてフリーBGMを制作・公開しているという。
それでも同社は、この文化を長期的に持続可能なものにする必要性を認識している。
「OpenTracksは広告収益やYouTubeチャンネルの収益の一部を作曲家に還元しています。しかし、収益分配だけを作曲家への主要な支援手段とは考えていません。
作品を発表する場を提供すること、より多くの人に音楽を使ってもらえるようにすること、作曲家自身の知名度を高めること、企業やクリエイターとの新たなつながりを生み出すこと、そしてBGMの利用に関する問題に対応すること。これらもすべて重要な支援だと考えています」。
OpenTracksは「無料で利用できる音楽」という文化を維持しながら、作曲家の作品がより広く利用される環境を構築し、それによって作曲家自身に新たな機会が生まれるようにすることが自分たちの役割だと考えている。
今後の大きな変化
OpenTracksでは、今後注目すべき複数の変更が予定されている。宮川氏は移行の進捗状況と、今後サービスに追加される機能について次のように明らかにした。
- 多言語対応
- 楽曲を見つけやすくする機能の改善
- アカウント機能(再生履歴・ダウンロード履歴)
- 参加作曲家をフォローし、新作を確認できる機能
- 海外のクリエイターコミュニティとのより密接なコミュニケーション
「利用規模が拡大し、ユーザー層も多様化したため、今後の日本国外への展開も含め、個人ではなく企業によって継続的に運営する必要があると判断しました」と宮川氏は語る。
運営移管後の最初の3か月については、システムを全面的に刷新して運営を移行。その後、多言語対応と海外ユーザーとのコミュニケーションに取り組み始めたという。
DOVA-SYNDROMEはなぜOpenTracksに名称変更したのか?
「DOVA-SYNDROME」または「DOVA」という名称は、すでに複数の国で商標登録されていた。また、日本でのユーザー調査でも、ピンクのアイコンでしか認識できず、名前をどう発音すればよいかわからない人が多いことが示されていたという。
宮川氏はこう考察する。
「これはすでに日本国内でもブランディング上の課題でしたが、国際展開、特に英語圏以外への展開では、さらに大きな障壁になる可能性があると考えました。
(今後予定している)これらの機能が広く利用されるようになった後に商標問題が発生し、その結果、名称やURLを変更しなければならなくなった場合、ユーザーへの影響ははるかに大きくなってしまいます」。
そのため、大きな内部変更を実施する直前のタイミングで、まずサービスがどのように認識されるかを変える必要があったという。
なぜDOVA-SYNDROMEは企業運営へ移行したのか?
OpenTracksを通じて配信される楽曲がこれほど人気になるのも仕方のないことだ。ユーザーからも作曲家からも、全員が楽曲をカバー(歌ってみた・演奏してみた など)できるようにしてほしいという要望が以前から寄せられていた。
これらを許可するには利用規約の大幅な改定や変更内容の周知、関連する申請への対応が必要となる。宮川氏によれば、従来の運営体制ではこれらに対応することが難しかった。
「私たちは、参加している作曲家の方々を単にプラットフォームにBGMを提供する人としてではなく、個々のアーティストとしてもっと表舞台に出していきたいと考えていました。演奏や歌唱を許可することも、この方向性の一環です」と強調した。
法人化によって、ブランドとのさらなるコラボレーションも可能になった。
2026年9月29日、OpenTracksはカシオ計算機のオリジナルサウンド提供プラットフォーム「Waves Place」とのパートナーシップから生まれた楽曲をリリース。カシオは5名の作曲家を選出し、同社のヴィンテージキーボード音源を使用した新しいフリーBGMを制作した。
「これはまだ始まったばかりですが、今後は作曲家と企業、あるいは作曲家とVTuberを含むパフォーマーとのコラボレーションを通じて、作曲家自身の知名度を高める機会をさらに生み出していきたいと考えています」。
OpenTracksが目指す未来
リブランディングの先を見据え、2~3年後にOpenTracksがグローバルなコンテンツクリエイター市場でどのような存在になると考えているのだろうか?
「日本国外のクリエイターが安心して使えるフリーBGMを必要としたときに、最初に思い浮かべる場所のひとつにOpenTracksがなっていてほしいと考えています。
より広く言えば、フリーBGMという存在自体が、日本のクリエイター文化の中で育まれた音楽配信の一形態として世界で認識されるようになってほしいです。
アニメ、マンガ、VTuber文化が日本で成長し、それぞれのルーツや独自性を保ちながら世界で受け入れられるようになったのと同じように、フリーBGMもまた、日本のクリエイター文化によって形作られた音楽配信のもうひとつの形として、世界中でより広く認知されることを願っています」。
新たな章へと踏み出したOpenTracksは、フリーBGMと作曲家を発見する機会を提供することで、世界中のクリエイターがより自由に創作できる環境を目指している。同プラットフォームはフリーBGMの中心的な拠点となり、日本独自の音楽文化の一部として定着させることを目指している。
※当翻訳記事のサムネイル画像および記事中画像はOpenTracks公式サイトの画像から作成しました。


