VTuber NewsDrop編集部は、珍しい場所に拠点を置くVTuber事務所のタレントとスタッフに話を聞いた。
By Jay Agonoy (2025/9/7)

「私がデビューしてから、同じ地元のVTuberがどんどん増えてきたのに気づきました」。
これはNyaNohがVTuber NewsDropに最初に語った言葉だ。多くの人は彼女を知らないかもしれないが、彼女は東南アジアの国・ミャンマー出身のVTuberの草分け的存在だ。
「それがとても嬉しかったんです」。
NyaNohは2021年初めに初配信を行い、YouTubeには現在4000人以上の登録者いる。また、Facebookでの活動のほか、すでにサービス終了したAniLiveでも配信をしていた。
NyaNoh(ニャノ)

NyaNohのキャラ設定によれば、彼女は国から追放された王女であり、「他の人と見た目が違う」という理由だけで奪われた尊厳を取り戻すため、王国に帰還する修行をしているという。
そんなNyaNoh自身も昨年から活動を休止中だ。
「活動を休んでいるせいで、地元のVTuberを思うようにサポートできなかったのは心苦しいです。でも復帰したらやりたいことがたくさんあります。コミュニティを育てて、未来のミャンマーのVTuberを応援したい。まだまだ大きな可能性があると思っています」。
その可能性を探っているのが、彼女が現在所属する事務所「ARRI Virtual」だ。
「創業者のひとりは、私の元編集者なんです。私の動画や音楽プロジェクトを担当してくれて、そこからとても親しい友人になりました。 友情はますます深まり、私は共同創業者として事務所に参加することにしました。同じ目標と情熱を共有していると感じたからです」。
NyaNohは、国内のVTuberにこれから大きなチャンスが訪れると考えている。
「ミャンマーでは才能あるVTuberがたくさん育っています。これからもっとチャンスが広がると思うし、国際的にも評価されると思います。みんなの成功を願っていますし、シーンがさらに発展することを望んでいます」。
現在その長い道のりを歩んでいるのがARRI所属のタレント、Sasayaka Lumi、Morika Rei、Seika Marionette、そしてAmanogawaだ。
Sasayaka Lumi(ささやか嚠美)

「事務所にスカウトされたんです。歌うのが好きで、Vシンガーに強い情熱を持っていたので加入を決めました」とLumiは語る。
「私の一番の目標は、大好きな曲を歌うことと、みんなが楽しめるコミュニティを築くことです。地元の人々にもっとVTuberを知ってほしいんです」。
彼女の目標は多くのVTuberと重なる部分も多い。しかし、彼女の出自を知れば、その言葉の重みが理解できるだろう。
「ミャンマーの人々は少しずつVTuberという新しい存在を受け入れるようになっていて、将来的にはVTuberが前向きに“当たり前”として受け入れられるようになると思います。
すでに地元のVTuberの中にも素晴らしい才能を持つ人がいますし、もっと多くの人の目に留まり、評価されてほしいと願っています」。
Morika Rei(守歌令)

Morika Reiは自身のARRIとの歩みをこう語る。
「VTuberに情熱を持っていて、以前はすべて自分ひとりでやっていました。でも、ひとりですべてをやるのは本当に大変で、夢を叶えてくれるサポーターが欲しかったんです」。
こうして彼女はオーディションの道へ進んだ。
「たくさんの事務所を受けましたが、どこにも受からなかったんです。そんなとき、FacebookでARRIを見つけました。聞いたことのない事務所でしたが、多言語で書かれた紹介文がプロフェッショナルで本気さを感じて、もう一度挑戦しようと思いました。そして今ここにいるというわけです」。
タイ在住のMorikaは、ミャンマーを拠点とするVTuber事務所のメンバーになったことに自分でも驚いている。彼女は「現実のことを持ち込まず、VTuberとしてゲームをしたり歌ったり友達を作ったりしたい」と語る。
「私はタイ出身なので、ミャンマーのVTuber事情にはくわしくありません。でも、ARRIがそれの手助けをしてくれると信じています。私もミャンマーのVTuber文化がもっと広がることを願っています」。
そんなMorika Reiは2025年8月27日にTwitchで正式デビューを果たした。
Seika Marionette(生歌マリオネット)

Seika Marionetteもまた、自分のプライバシーを大切にしながら創作活動をしたいと考えている。
「リアルの生活を切り離したまま、このクリエイティブな旅を心から楽しみたいんです」と彼女は言う。
とはいえ、ARRIへの参加は簡単な決断ではなかった。
「正直、歌うのは大好きでしたが、ボーカルだけで止まっていました。ミックスや映像制作、イラストなどを一人ではこなせず、未完成の企画が多かったんです。
ARRIは私が苦労してきたことをすべてサポートしてくれました。しかも同じ情熱を持つ仲間とも出会えました。特に年齢を重ねると、そういう人に出会うのは簡単ではありませんから」。
バーチャルシンガーを目指す彼女は、心の奥底に何かを感じさせてくれる人たちからもインスピレーションを得ていると語る。「慰めや励まし、純粋な喜び。そういう感情を与えてくれる存在に、私もいつかなりたいんです」。
NyaNohと同じように、SeikaもミャンマーのVTuberシーンに大きな可能性を感じている。
「才能あるクリエイターはたくさんいるし、質にこだわり続ければコミュニティは必ず成長すると信じています。もちろん、続けることも質を高めることも口で言うほど簡単ではありません。でも、大事なのは諦めないこと。前に進み続ければ、シーンはきっと進展するはずです」。
Amanogawa(天の川)

ホロライブの星街すいせいが「THE FIRST TAKE」に出演したことは、VTuberを知らなかった人々にその存在を広めただけでなく、Amanogawa自身にも歌手を目指す決意を与えた。
「彼女の物語にとても心を動かされて、私も自分にできることをやろうと、歌手になる夢に一歩踏み出す決心をしたんです。音楽とすいせいさん、この二つが最大の原動力です!」と彼女は語る。
「幼いころからオンラインコミュニティと音楽が心の拠り所でした。だからバーチャルシンガーとして、人々が人生のつらさから少しでも解放されて、友達を作り、音楽を楽しめる場所を提供したいんです。
いつか大きなステージに立って、私を支え、信じてくれた人たちに歌を届けたい。そして今の私を作ってくれたアーティストたちにも感謝を伝えたいです」。
Amanogawaもまた、ミャンマーのVTuber文化の未来に希望を抱いている。
「ミャンマーのコミュニティには才能豊かなVTuberやVシンガーがすでにたくさんいます。世界に認められるのは時間の問題だと思います。
地元の才能あふれる人々が、創造性やスキルを発揮する姿を見るのが待ちきれません。みんな頑張って! 夢と野望を叶えましょう!」
ARRIが掲げる2つの大きな目標
ARRIの運営チームに、なぜ不安定と見られがちな国で事務所を立ち上げたのかを尋ねた。彼らの答えは「バーチャルエンターテイナーへの情熱」だった。
「ただのファンから始まったものが、この業界に貢献したいという強い思いに変わったのです」。
ARRIが狙うのは一石二鳥だ。VTuberをミャンマーに広め、新しい市場を開拓すること。同時に、地元出身のタレントを育てることだ。
「まだ眠っているクリエイティブな人材はたくさんいて、VTuber業界で活躍できる可能性があります。私たちは彼らがバーチャルなペルソナを育て、ファンとつながるためのリソースやトレーニングを提供できるように努めています。
VTuberはグローバルで人気ですが、ミャンマーではまだ新しい存在です。先行者として、私たちはミャンマーのVTuberシーンの土壌を形づくり、熱量の高いコミュニティをゼロから築く手伝いができます。
VTuberは文化交流の現代的な手段でもあります。ミャンマー独自の視点を世界へ発信しつつ、同時に国際的なトレンドをミャンマーのファンに届けたいと思っています」。
ミャンマーのVTuber事情

周辺諸国と比べると、ミャンマーのVTuberシーンはまだ始まったばかりだと言う。
「実際に活動している地元VTuberの数は少ないかもしれませんが、ホロライブやにじさんじなど大手事務所の国際的なVTuberの影響を受け、VTuber文化への認知と理解は広がってきています。ファンはコンテンツを楽しみ、他国と同じようにお気に入りのタレントを応援する意欲を持っています」。
一方で課題もある。技術や機材、特に安定したインターネット環境が不足しているのだ。「こうしたハードルを解決し、タレントを育てられる事務所がもっと必要です」。
「ミャンマーのVTuberシーンの可能性には、いくつかのカギがあると考えています。ミャンマーには豊かな文化遺産と、物語や芸術、パフォーマンスに優れた人材がいます。
それによって、地元に強く響き、国際的にも注目される独自のVTuberが生まれるでしょう。インドネシアやタイなど近隣国の成功例を見れば、ミャンマーもこの地域のトレンドに乗れるはずです」。
不確かな未来だからこそ、夢の実現には情熱と献身性が重要だ。誰かが道を切り開かなくてはならないと彼らは強調する。
「技術やトレーニング、マーケティングの課題を解決し、魅力的で文化的に意味のあるコンテンツを生み出すことで、ミャンマーのVTuberシーンは必ず発展し、周辺諸国と肩を並べるコミュニティを形づくることができるでしょう」。
ARRIがタレントに求めること
「私たちはVTuberへの深い愛情からARRIを立ち上げました。だからこそ、本物の情熱を持つ人材を探しています」と彼らは語る。
「視聴者を惹きつけ、楽しませ、つながりを築ける才能。流行を真似るだけでなく、独自の魅力を持ち込める才能。仲間意識を生み、視聴者に“自分もこの物語の一部だ”と思わせられる才能。そういう人材こそが必要なのです」。
ハイリスクハイリターン
世界的に見れば、VTuber業界はコストも高く競争も激しい。さらにミャンマー国内の政治・経済的不安定さを考えると、この国で先行してVTuber事業を立ち上げるのはリスクが大きいのではないか。それはARRIも認めている。
「ですが、これはハイリスク・ハイリターンの挑戦です。ミャンマーではインターネット普及が進み、デジタルネイティブの若者が多く存在します。未開拓の市場には大きな創造的可能性があります。先行者として、私たちはミャンマーのVTuberシーンを形づくり、ユニークな才能を育て、強固なコミュニティを築いていきたいのです」。
ARRIの戦略は、情熱を原動力にしながら柔軟に適応し、戦略的に実行することにある。
また、日本のポップカルチャーがミャンマーでどう見られているかについて尋ねると、「ミャンマーでは特に若者の間で日本のポップカルチャーへの愛が深く、ますます広がっています」と答えた。
アニメやマンガは身近になり、J-POPやアイドル文化も人気だ。「日本語学習の広がりや、コスプレ・ファンコミュニティの盛り上がりを見れば、その熱狂ぶりは明らかです」。
この現状は、ARRIにとって大きな追い風だ。VTuber文化を国内に広めるという事務所の計画と合致しているからだ。
「私たちは、VTuberを“知っている”だけでなく、その特別さを受け入れている市場に参入しようとしています。当社の成長と強固なコミュニティを育てる土壌があるのです」。
今後の目標
現在、ARRIには「Eonica」というユニットに所属する4人のタレントがいるが、年末までに新ユニットを立ち上げる予定だ。
また、ファンとの交流を深めるため、アートコンテストなどのインタラクティブな活動を増やしていくという。コラボレーションやファングッズも準備中だ。
「ゲームや音楽だけでなく、ミャンマー独自の文化要素をVTuberを通して発信し、地元に親しみやすく、同時に世界にとって特別なものを届けたいと考えています。
野心的な目標を掲げながらも、ミャンマーが抱える課題を踏まえ、柔軟に対応できるよう準備もしています。ネット環境に問題があってもVTuberが活動できるよう、代替策も用意しています。ARRIをミャンマーのエンタメ業界における重要な存在に育てることを約束します!」
※当翻訳記事のサムネイル画像および記事中画像は、ARRI公式Facebookの画像と各タレントのYouTube動画から作成しました。