IRIAM US、サービス開始から1年 — コミュニティと歩んだ成長の軌跡 【翻訳転載】

VTuberやコミュニティとの協力を通じて、彼らは何を学んだのか? 悪意ある人物からプラットフォームを守るためにどのような取り組みをしているのか? 米国外への展開に開かれているのか?

By VTuber NewsDrop編集部 (2025/11/12)

アイキャッチ:IRIAM US、サービス開始から1年
Note

 本記事は海外のVTuber専門Webメディア「VTuber NewsDrop」の記事を、許諾を得て翻訳・転載したものです(記事中で使用している画像は訳者が独自に用意したもの。元記事とは異なる場合があります)。


 昨年11月、日本のモバイルVTuberアプリ「IRIAM(イリアム)」が米国に進出したのは、まさに縦型配信が盛り上がりを見せようとしている時期だった。

 それから1年、我々が知る限り、IRIAM USは「縦型特化、スマホ単体で利用できるVTuber配信アプリ」として唯一現在もサービスを継続しているアプリとなっている。

 IRIAMのチームはサービスを正式に発表する前から我々VTuber NewsDropと連絡を取り、自分たちがどんなコミュニティに参入するのか理解しようとしていた。過去1年で築いてきたその「コミュニティに耳を傾ける姿勢」こそが、彼らの成長を示す証だと我々は考えている。

 今回、IRIAM USチームの担当者に再び連絡を取り、チーム全体の立場からこの1年を振り返ってもらった。

VTuberシーンから得た最大の学び

 「米国でのアプリリリースから1年が経ちました。サービス立ち上げ時から関わった特別なメンバー(Founding Streamers)や先行して参加した配信者(Early Access Streamers)など、多くの人々が新しいプラットフォーム作りに挑戦してくれました。

 ともに形作ってきたこのコミュニティの力強い存在こそが、今日のIRIAM US最大の強みのひとつです」。

 Founding Streamersは昨年8月に発表され、今年の5月にはそれに代わるEarly Access Streamersプログラムが設けられた。記録によると、Founding Streamersは5月にプログラムが切り替わるまでに225名いた。

 「さまざまなイベントやオンライン企画をサポートするなかで、配信者や視聴者が自発的にシーンを盛り上げる行動を見かけたことが何度もあり、私たちも強い印象を受けました」。

 OffKai ExpoAnime Expoなどの具体的なイベント名を挙げながら、担当者はそう語った。

IRIAM USはAnime ExpoやOffKai Expoなど、現地イベントへの参加を通じて存在感を示してきた

 IRIAM USは非常に大きく成長し、多くのクリエイターを迎えてきた。英語圏のVTuberシーンについて、これまででもっとも大きな学びは何だったのだろうか?

 「ユーザーの皆さまを見ていても、チームに協力したい、改善提案をしたいと積極的に言ってくれる方の数が私たちの想像をはるかに超えており、常に嬉しい驚きと喜びの源になっています。

 USチームが大切にしているもっとも重要な学びは、この驚くべきエネルギーを高め、広げていくために積極的に取り組むことです。

 さらに英語圏のVTuberシーンの特徴として、多様なバックグラウンドを持つ人々がひとつのファンコミュニティの中で共存できることが挙げられます。

 育ってきた文化や常識、居住地が大きく異なる人々が、バーチャル配信ではその違いをほとんど意識せず、ときに楽しみながら時間を過ごしているのです。

 これは本当に素晴らしいことだと感じます。バーチャル配信ならではの強みを活かしたサービスと空間をどう提供できるか、私たちは今後も考え続けます」。

避けて通れない問題への対応

 IRIAM USとそのコミュニティに関しては、以下のような懸念も寄せられている。

  • 一部の配信者から「悪意ある行為者(bad actors)」とみなされたクリエイターの参入
  • ボットアカウントの増加と、特定のクリエイターが有利になるよう視聴者数が操作されているという疑惑
  • そのような悪意ある人物が別のアバターで再び参入する可能性

 これらについて、今後どう対処していくのかを尋ねた。

規制と自由のバランス

 「IRIAM USは現在もベータ版で、米国市場における理想的な形を探り続けています。今はFounding StreamersやEarly Access Streamersなど、一部のグループのみ配信に招待していますが、最終的には誰もが自由に配信できるオープンなプラットフォームになる予定です。

 実際には、この道のりは決して平坦ではなく、慎重な判断が必要な局面が多くありました。私たちは、できるだけ多くの人に開かれた安全な環境を提供することを目指しています。その実現に向けて、あらゆるプラットフォームに共通する『規制と自由のバランス』は、非常に繊細で難しい課題です。

 もちろん、利用規約に明確に違反する行為については、これまでも厳正に対処してきましたし、今後もそうします。しかし、客観的な判断が難しいケースも存在します。

 そのような状況でどの基準を用いるかによって、プラットフォームが過度に寛容になって安全性を欠いたり、逆に制限が強すぎて窮屈になったりしてしまいます。

 私たちは、どちらか一方に偏ることなく、健全で活発なコミュニティを育むためのバランスを常に模索しながら運営を続けています。

 プラットフォームが完全にオープンになったとき、過去の行動や経歴に基づいてユーザーをふるいにかけることはできませんし、すべきではないと考えています。もちろん、IRIAM利用中に規約違反があれば、適切に対処します。

 さらに技術面では、この『安全な配信空間』を守る取り組みのひとつとして、最近導入したモデレーターツールがあります。違反を直接検知し対応するのにはどうしても時間がかかるので、各コミュニティが自分たちの配信環境を守れる仕組みとして、モデレーターツールは重要な役割を果たすと考えています」。

配信者向けモデレーターツール

 最近リリースされたIRIAM USのモデレーターツールにより、配信者はモデレーターを任命し、悪意あるユーザーに対処してもらうことができる。対処内容は、コメントを他の視聴者から見えなくすることから、配信から追い出して再参加できなくすることまで多岐にわたる。

 この機能をアプリに搭載するまでにどれくらいかかったのか聞いた。

 「モデレーターツールを求める声は当初からありましたが、米国でのリリース当初はさまざまな機能が同時に求められていました。すべてを一度に開発することはできないため、どれを優先するか慎重な検討が必要でした」。

 アプリのリリース後もユーザーとの対話を続ける中で、このツールが今後不可欠であると確信するようになったという。ツールの開発はリリースまでに4か月を要した。

 「IRIAMを初期から支えてくれたFounding Streamersのフィードバックは、このツールの仕様や実装を形作るうえで不可欠でした。この機能は IRIAM USコミュニティと共に作り上げられたものだと強く感じています。

 IRIAM(日本版を含む)では、常にユーザーの声を開発プロセスに深く反映させることを大切にしてきました。この継続的な対話こそが成功の理由のひとつであると信じています。この姿勢は米国でも維持し、現在と未来のユーザーとともに、この空間を育てていきます」。

 さらに、アプリ運営や多くの人々への対応には、明確なポリシーやツールと、慎重な人間の判断という「両輪」が必要だと述べた。このアプローチによって、個性が輝ける安全な空間が確保できると彼らは信じている。

クリエイター支援の継続

 IRIAM USはこれまでに多くのクリエイターやイベントを支援してきた(そして今も続けている)。クリエイターが自身やコミュニティの理想を実現するために、どのくらいのサポートが必要か把握できているのかを聞いた。

 「クリエイター支援は常に中心的なテーマです。IRIAMというプロダクト自体が、バーチャル配信という新しい表現形態をサポートすることで、より多くの人に価値ある体験を提供する『場所』を作ることを目指しています。

 米国では、VTuber経験のない人へモデル提供やデビュー準備を行うこと、アプリ内イベントによるコミュニティ活性化、OffKaiなどオフライン会場での特別な体験提供など、さまざまな形で支援を模索してきました。また、外部イベントやパーティー、コンサートなどにも協賛し、アプリを直接使っていない人にもVTuber活動(VTubing)の楽しさを届けてきました。

 特に印象深いのは、多くの人々が自ら新しい挑戦に踏み出している姿です。こうした情熱的な取り組みを後押しし、火に油を注ぐように支えていきたいと考えています。イベント企画だけでなく、さまざまな形でクリエイター活動を積極的に支援していくつもりです」。

 IRIAM USがこれまでサポートしてきたイベントには以下のようなものがある。

  • USSホーネットで行われた「NuCloud Music Festival
  • Otoharu RiyoがSan Japanで開催した「BRAND NEW MIRAI」
  • Anime Expo期間中に行われた「Fantastic Reality
  • OffKai Expo期間中の週末に開催されたCeles Aurionの「Nyan Nights」
  • Little TokyoのHigh Tide Bar and Music Venueで行われたVTuberファンイベント「V: IRL」

 さらにその前には、ロサンゼルスのアニメイトでIRIAM配信者5名がコラボイベントとして起用された。また、今年のAnime Expoでは会場にリアル広告も掲出された。

 「今後は、特にVTuberを始めたばかりの人々のサポートに力を入れていきます。VTuber文化は、すでに活動している人だけでなく、もっと多くの人の創造性や個性を解き放つ可能性を持った素晴らしいメディアだと信じています。

 そのため、できるだけ多くの人がVTuberの世界に踏み出せるようにし、この文化と業界全体の成長に貢献していきたいと考えています。

 現在はデビュー支援プログラムを通じたキャラクター提供などの支援を行っていますが、今後もより多くの人がVTuberとして輝けるよう、どのようなサポートが可能か常に模索し、挑戦を続けていきます」。

IRIAM USにはどれくらいのユーザーがいるのか?

 データプライバシーポリシーのため、現時点での正確なIRIAM USアプリ利用者数を教えてもらうことはできなかったが、毎日多くの新規ユーザーが利用を始めているという。

 モバイルアプリ・ゲームの分析データを提供するSensor Towerのレポートによれば、IRIAM USはGoogle PlayとApp Storeでそれぞれ約3万回ダウンロードされ、収益はそれぞれ約30万ドルと70万ドルに達している。

 それでも、まだ多くのVTuberファンがアプリの存在を知らない、または利用していないことを認識しているため、引き続き認知向上に取り組んでいる。

 「少し意外に思われるかもしれませんが、私たちはIRIAMを必ずしも “VTuberファン専用のアプリ” とは考えていません。最終的な目標は、“できるだけ多くの人にバーチャル配信の素晴らしさを体験してもらうこと” です。

 IRIAMチームは、バーチャル配信には人生を良い方向に変える力があると信じており、その体験を広く伝えたいと考えています。つまり、これまでバーチャル配信に触れたことがない人にも、配信者として、あるいは視聴者として楽しんでもらいたいのです」。

 IRIAMは日本市場で成功を収めており、IRIAMをきっかけにVTuberに興味を持つようになったという実例もある。

 「日本では、それまでVTuberに興味がなかった人がIRIAMを通じてバーチャルの世界へ踏み入れるケースが数多く見られました。タレントやコンテンツとしてのVTuberに惹かれていなかった層にバーチャル配信の魅力を伝えられるという点で、私たちはプラットフォームとして独自のアプローチを実現できていると考えています。

 現在、多くのIRIAM USのユーザーはたしかにVTuberファンです。彼らはすでにバーチャル配信の魅力を理解しているため、IRIAMの価値を理解しやすく、まずはこうした人々にサービスを届けることが重要です。

 しかし最終的には、“VTuberファン”というくくりを超えて、誰もが自然体で楽しめるアプリになることを目指しています。これがIRIAMとして実現したいビジョンです」。

IRIAM USは他の地域にも開放されるのか?

 最後に、近い将来に米国外からのユーザーを受け入れる予定があるかどうかを聞いた。

 「この1年、米国展開に専念してきた中で、単純にアプリストアの配信地域を広げるのではなく、現地コミュニティと直接関わり、ユーザー同士の関係性を理解したうえでサービスを成長させることが重要だと強く感じています。IRIAMは地域ごとの文化やユーザーの動向を尊重しながら育てていく必要があると考えています。

 IRIAMを米国以外でも利用できるようにしてほしいというご要望は、世界中から非常に多くいただいています。その期待には深く感謝しています。

 こうした状況を踏まえ、現在優先的に展開を検討している地域はカナダです。早ければ来年初めには利用可能になる見込みで、現地の法令順守や物流面の準備も順調に進んでいます。

 その後の地域展開について、現時点では具体的な情報をお伝えすることはできませんが、世界中のより多くの人が安心して IRIAMを使えるようにする方法を、チーム一丸となって継続的に模索しています」。

 IRIAM USは将来、「IRIAM North America」と呼ばれるようになっているかもしれない(半分冗談だが)。


 1周年を記念して、IRIAM USは「タウンパーティー」をテーマにした1週間のイベントを開催する。11月11日〜17日(米国時間)の期間中、参加する配信者とファンに報酬が与えられるという。


※当翻訳記事のサムネイル画像および記事中画像はIRIAM US公式サイトの画像から作成しました。