長年にわたって嫌がらせを受けてきた彼女が自分の「声」を取り戻せたのは、VTuberという存在のおかげだった。
By Monty Seelana (2022/4/17)
声についての悩み
VTuberは声が命だ。VTuberのイラスト(外見)は理想どおりにすることはできても、声だけはごまかせない。だからこそ、多くのVTuberたちは自分の声に強いコンプレックスを抱く。
常闇トワ(ホロライブ所属)、セレン 龍月(NIJISANJI EN所属)、ゼントレヤ(VShojo所属)といったビッグネームも自身の声について深い悩みを打ち明けたことがある。それでもファンたちは彼女たちを支え続けている。
そういう話をKimie(キミー)ほどわかっている人はいない。長年の嫌がらせを経てKimieが自分の声を取り戻せたのは、VTuber活動(VTubing)のおかげだからだ。
「私はVTuber活動を始めたばかりで、まだ1年しか経っていません」とKimieは語り始める。彼女はゲーム実況者で、プレイするジャンルも幅広い。
「主にFPSをプレイしています。いまはほぼ『Apex Legends』ですが、その他にも『Phasmophobia』とか、正直なんでもプレイします。
……『リーグ・オブ・レジェンド』(LoL)以外はね。LoLには手を出しません」。
VTuberの沼にハマる
VTuberの生い立ちには聞きたくなる話題が多い。彼ら/彼女らがネット上でアニメのキャラクターを体現しようと思ったきっかけは? KimieがVTuberの世界に引き込まれた理由とは?
「何年前かわかりませんが、キズナアイが初めてYouTubeに登場した時ですね。私は、『なにこれ? なんか変わってる。なんでアニメの女の子が人みたいに動いて喋ってるの?』と思っていたんです」。
KimieはVTuberの存在を知ってはいたが、当初は積極的に関わろうとは思わなかった。
「知ってはいるけど関わりたくない、と思っていました。ホロライブなども知っていましたし、キズナアイを通じてVTuberのことも知っていましたが、コンテンツは一切見ていませんでした。周りの人たちがVTuber沼にどんどんハマっていくのを見て、あまり近づきたくなかったんです」。
しかし、そんな気負いも、技術への理解が深まるにつれて薄れていった。
「VTuberにハマった最初のきっかけは技術面だったと思います。VTuberになるのに必要な技術は思ったよりも身近で、簡単に習得できて簡単に使えるとわかったんです」とKimieは語る。敷居の低さを感じた彼女は、自分もちょっといじってみたいと興味を持ったのだ。
「髪型に衣装、それに体型とか、いろいろなものを探して試しました。それから、手を動かしてみたくてLeap Motionを注文して、そこから『全身トラッキングもやってみたい』と思うようになりました。本当にクールでした。その技術に魅了されたんです」。
そして気づけば、Kimieは自分の理想の姿を作り上げることに夢中になっていた。もちろん、それ以外のメリットにも魅力を感じていた。「ネット上でかわいいアニメの女の子になれるチャンスがあるなら、ならない手はないでしょ? 夢みたいな話じゃないですか」。
友人や“家族”を見つける
KimieがVTuberのコミュニティに参加するのにそう時間はかからなかった。しかし、それはほとんど偶然だった。
「面白いのは、私はコンテンツを作ろうなんて全然考えていなかったことです。自分のためだけに配信していて、『今のプレイ、録画しておけばよかったな』みたいな気持ちで配信を始めたんです。
見返して『思わず吹いちゃった』とか『超ウケるんだけど』とか言うためにね。自分で積極的にコンテンツを作りたいとか、自分が考えたネタでみんなを飽きさせないようにしようとか、そういうことは考えてなかったです。
アニメのアバター姿をした女の子として、友達と好きなゲームを配信するだけのつもりだったんです」。

VTuberになる前、KimieはTwitchで配信をしていたことがある。だが、顔出しはしておらず、情熱があったわけでもなかった。
「配信はずっとやりたかった。以前から配信はしていたけど、顔出しで配信はしていなくて、ただのゲームプレイ動画でした。そんなとき、友人が『顔出ししなくても、代わりにアバターを出せばいいじゃん』と言ったんです」。
その一言で、すべてが変わった。
「自分のアバターが自分と同じように動いて、話して、表情を見せてくれる。それが本当に不思議で、でもすごく心地よかったんです」。
「始めたばかりのころは見てくれる人も少なくて、2、3人来てくれればラッキー、という感じでした。でも、自分のアバターで配信するのが楽しくて、もっと配信をするようになったらだんだん人気が出てきて、コミュニティができたんです。
私が配信を続けている最大の理由は、私が配信することで生まれるコミュニティが本当に好きだからです。私がゲームをプレイするのを楽しんでくれる人たちがいて、今でも本当に驚きです」。
何よりも、この“家族”の存在が、Kimieを居心地よくさせてくれた。
「本当に辛いとき、スマホでVTube Studioのアプリを開くと、私のアバターが微笑んでくれて、とてもいい気分になるんです。
サポートコミュニティで出会った本当に素敵な人たちのことや、みんな本当にKimieのことが好きなんだということを思い出させてくれて、とても幸せな気分になります。だって、もしKimieのことが好きじゃなかったら、そこにいてくれないでしょう?」

KimieのVTuberとしての歩みは、自身がVTuber活動に馴染んでいくにつれ、さまざまな変化を遂げてきた。
誰の目にも映っていたのに、隠れていた
Kimieにとって、彼女がこの環境で快適に過ごせることは本当に重要だった。というのも、何十年もの間、Kimieはそうした「居心地のよさ」を感じられなかったからだ。
「私は“古参”です。7、8歳のころからずっとゲームをしています。私の若いころはインターネットが普及する前の時代で、まだダイヤルアップが主流でした。
ずっとネットで遊んでいたし、ネットで女の子というのは……今はもうそんなことないけど、当時、90年代ではすごく珍しいことだったんです」。
「だから、声を出すのが怖かったんです。バカにされるんじゃないかと思って。女の子だから、イギリス人だから、話し方が違うからといって要らない注目を受けました」と、Kimieは多くの女性たちと同じような体験を語る。
「元カレが北米出身で、よくからかわれました。私のしぐさや発音を真似したりとか。それで、オンラインではイギリス訛りを出さないように意識的に抑えるようになったんです」。
そうした嫌がらせから身を守るために、Kimieは意図せずして自分を変えていくことになる。
「一緒にいるのが北米の人ばかりだったので、無意識のうちに(アメリカ訛りが)うつってしまうようになりました。積極的にやろうとしたわけではありませんが、常にその言葉しか耳に入ってこないと、そうなってしまうんです」。
本来の自分を取り戻す
「VTuberのコミュニティに入ったとき、実は私はイギリス出身だと言ったら、『えっ、どうしてイギリス訛りがないの?』とか言われましたが、私は何度も「訛ってるよ」と答えていました」とKimieは言う。
それが何度も話題になったため、彼女は自分の話し方についての誤解を解くためにTwitLongerに投稿もしている。

「誰と話しているかによって、頭が自動的に切り替わるだけなんです。イギリス人と話せばイギリス英語で、アメリカ人と話せばアメリカンアクセントで話し始めます。自分ではコントロールできないんです。頭が自動的にそうなるんです」。
たしかにこのインタビュー中、Kimieはこの瞬間まで、私のアメリカンアクセントに合わせた話し方をしていた。
「20年も続いたクセを直すのは本当に難しいですが、みんなが『自然な声で話していいよ』って言ってくれて。
発音するときに時々イギリス訛りが出てしまうのですが、チャットでは『いやいや、とてもいい発音だよ。隠さなくていいから、普通に話して』と言われます。それを聞いて、本当に嬉しくなりました。本当に、本当に嬉しいんです」。
「まだがんばっている途中だけど、『普通に話していいんだ』って自分に言い聞かせるようにしています。だって、声や話し方のせいで私をバカにしたり、批判したり、不要な注意を払ったり、嫌がらせをしたりする人はもういないんだから」。
深く息をつきながら、Kimieはそう語った。

VTuber活動を始めた当初、Kimieは自分がコミュニティを見つけられるとは思っていなかった。
長く続けられるとも思っていなかった。
そんな彼女が、最近無事に活動1周年を迎えた。
自身にとって非常に大切なテーマについて、時間を割いて質問に答えてくれたKimieに心から感謝します。
サムネイル画像:Karamomo Kitchen・VTuber紹介動画のスクリーンショットから作成
※このインタビューは2022年4月17日、Anime Cornerに初掲載されたものです。
※この翻訳記事のサムネイル画像は「Karamomo Kitchen」のVTuber紹介動画のスクリーンショットから作成しました。


