コーニリアス・ロー、VTuber界にプロレスの流儀を持ち込む 【翻訳転載】

Note

 本記事は海外のVTuber専門Webメディア「VTuber NewsDrop」の記事を、許諾を得て翻訳・転載したものです。


コーニリアス・ロー、VTuber界にプロレスの流儀を持ち込む

コーニリアス・ローは昼はプロレスラー、夜はVTuberとして、同じキャラクターを2つのメディアで異なる物語に仕立てている。

By Andrew Amos (2023/4/23)

 プロレスとVTuberの世界は、とても遠い存在に見えるかもしれない。わかりやすい違いは、プロレスはフィジカルな領域なのに対し、VTuber活動にはバーチャルの制約があるということだ。

 しかし、コーニリアス・ロー(Cornelius LOW)が体現するように、両者の間には少し共通点もある。プロレスとVTuberが提供するエンターテインメントには、どちらもケーフェイ(※)を越えた、ミュージカル演劇に似た特定のスキルセットが必要だと彼は言う。

【※訳者注】ケーフェイ(kayfabe):プロレス業界用語のひとつ。ショープロレスに求められる「暗黙の了解」「お約束」のこと。

 コーニリアス・ローは東南アジアを巡業するマレーシア出身のプロレスラーで、シンガポール、フィリピン、そしてオーストラリアと、地域をまたいでプロレスをしている。しかし、新型コロナウイルスの影響で全試合が中止になったことで、VTuber活動が彼のエネルギーのはけ口となった。

 「自分にとってVTuberへの移行が簡単だったのは、“プロレスラーのコーニリアス・ローがVTuberになったから”だろうね」と彼は言う。

 「自分がコーニリアス・ローなのは変わらないけど、自分をよりVTuberの文脈に適応させられるようになったんだ。別人になったわけじゃない」。

 プロレスラーとVTuberになる前は演劇をやっていたというコーニリアス・ローは、どちらの作法も問題なく習得することができた。プロレスの身体能力は自然に身についたものではないが、他のショーマンシップの要素の多くは自然に身についた。

 「ある意味、VTuberはキャラクターがすべて。そしてプロレスもまた、キャラクターが重要なんだ。あなたが思い浮かべるお気に入りのレスラーは、普通に通りを歩いているだけでも大きな存在であることに気づくはずだ。VTuberもある意味では同じようなものだよ。

 即興で自分のキャラクターを理解し、どのように自分を表現するかという感覚は、ライブパフォーマンスでもデジタルパフォーマンスでも多くの共通点があるんだ。

 VTuberになった当初は、プロレスのリングでやっていたのと同じようにまくしたててた。視聴者をバカにしたりね……。でも、配信のほうがたぶんちょっとだけ大人しいかな。だいたいの場合はね。でも、悪い癖は消えないものさ。リング上で対戦相手や観客に言ったくだらない言葉……そういうのが好きだからね。配信でもプロレス的なノリは消せないよ」。


 VTuber活動は、いわゆる「山の手の下っ端(uptown lowlife)」にとっていくつもの役割を果たした。コロナ禍によって、彼が子供の頃から愛し、ずっと腕を磨いてきたプロレスができなくなる中、何かできることはないかと考えたのがきっかけだ。

 VTuberとしての活動は、彼ができることに対して今までよりもクリエイティブの柔軟性を与えてくれた。彼は四角いリングに縛られることはなかった。髪を下ろし、リング上の“悪役”とは違った優しい一面を見せることができた(たいていは)。

 また、プロレス業で負った怪我も悪化させずに済んだ。彼はキャリアの初期に2度入院しており、その後遺症がいまだにリング上で彼を悩ませている。もし怪我が再発するようなことがあっても、VTuber活動におよぼす影響は小さいはずだ。

 「自分たちがやっていることは危険で、命にかかわる。最悪の場合、死ぬことだってある。安全には常に気を配っているけど、時にはうまくいかないこともある。残念ながら、自分はトレーニングを始めた当初にとてもひどい目に遭ったのさ。

 精神的にもうやめようと思った時期もあった。他のことをやったほうがいいんじゃないかと思ったし、実際、今も半分くらいはバーチャルの自分でいるわけだしね。プロレスラーであったことを否定するつもりはないけど、今だって別にペースを落としてるわけじゃない」。

 プロレスはニッチなエンタメであるにもかかわらず、VTuber界隈の興味関心は驚くほど高い。2023年初頭、セレン龍月(Selen Tatsuki、NIJISANJI EN所属)が主宰するプロレスの大規模トーナメント「Wrestlesanji」には数万人の視聴者が集まった。大規模コラボだったことが人気の理由かもしれないが、いずれにせよバーチャル空間でのプロレスに注目が集まった。

 しかもこれだけではない。元NFL選手からWWEスターに転身したブレナン・ウィリアムズはVTuberとして活躍している。WWEのアスカゼリーナ・ベガは、さくらみこ(ホロライブ所属)やアイアンマウス(ironmouse、VShojo所属)など、さまざまな大人気VTuberとの交流がある。そしてローは、今年のhololive SUPER EXPO 2023での象徴的なシーンについて語り始めた。

 「日本の新日本プロレスにグレート-O-カーンっていうプロレスラーがいるんだが」とロー。「彼の推しは(ホロライブの)大空スバルなんだ。

 アニメに出てくる悪役の手下のようなヤツらが、スバルじゃなく、彼女のマスコットであるアヒルをいじめて騒いでいる映像が流れたんだ。そのアヒルを助けに来たのは、スーツ姿のグレート-O-カーン。彼はファングッズの入った買い物袋を持っていたけど、それを脇に置いて悪者たちと戦った。スバルの名を冠したプロレス技も披露していたよ」。

https://www.youtube.com/watch?v=3VH6mgPpcCo

 しかし、肉体も疲弊し、VTuberが生活の一部となるにつれ、コーニリアス・ローはちょっとした危機感を抱いていた。彼はリアルでもバーチャルでも同じ姿をしているので、プロレスラーであることは変わらないが、プロレスラーとしての活動にかかる費用はかさむ。

 「プロレスラーには賞味期限がある。自分は(怪我のせいで)他の選手より少し短いだろうから、そこには気をつけようと思ってるよ」と彼は言う。「“怪我の功名”は、VTuber活動にチャレンジできたことかな。おかげでコーニリアス・ローはまだこうして存在していられるんだ」。

 「実際のところ、少なくともマレーシアではプロレスをやる機会はあまりない。毎週のトレーニングはできるけど、実際にイベントに参加するとなると? イベントを開催してカッコいいところを見せるには金がかかる。金がかかるし、とても大変なんだ。

 そういう意味では、VTuberとしてコーニリアス・ローでいられることが多くなった。お涙頂戴のようだけど、実のところそうでもない。プロレスラーとしてではなく、自分として、自分らしくふざけることができるからね。プロレスラーとしての勲章はまだ持っているよ」。

 どのような創作活動をすることになったとしても、長い目で見ればコーニリアス・ローはすべての人のためのエンターテイナーとして生き続けるだろう。

 「コーニリアス・ローは自分の一部だし、このブランドを利用してどんな活動でもやっていくつもりさ。プロレスやVTuber活動だけでなく、自分が追求するものは何でもね」。

 コーニリアス・ローのインタビュー完全版はBehind The Modelで見ることができます


※この翻訳記事のサムネイル画像は、コーニリアス・ローのインタビュー動画のスクリーンショットから作成しました。