異世界転生したら大学で講義することになった件:操斗モォ&フェイ
学術的な視点からエンターテインメントの最前線を支援する大学プログラム「Studio SIAT」。同プログラムに操斗モォ・操斗フェイがたどり着いた経緯を、彼ら自身が語る。
By Jay Agonoy (2025/3/15)

前回、フィリピンのキャンパスVTuberに注目しているなか、カナダから2人のキャンパスVTuberがデビューするというニュースが届いた。
VTuber NewsDropは、カナダのブリティッシュコロンビア州サレー市にあるサイモン・フレーザー大学(SFU)のインタラクティブアート&テクノロジー学部(SIAT)が、「スタジオSIAT バーチャルアンバサダープログラム」を立ち上げたことを知った。同プログラムにより、学生は学術的な視点からVTuberの世界を探求できるようになる。
「Vアンバサダープログラムを通じて、学生にコンテンツ制作・モーションキャプチャー・アニメーション・ゲームデザインといった需要の高いスキルを身につけてもらうことを目指します。同時に、スタジオSIATの研究開発ミッションを継続し、制作工程全体の成熟にも貢献します」と学校側は説明している。
Studio SIATは、バーチャルアンバサダーである操斗モォ(Mo Ayato、あやと・モォ)と操斗フェイ(Faye Ayato)で成り立っている。魔法学科の卒業生であるフェイと、彼の研究助手であるモォ(“キャプー”と呼ばれる魔法のレッサーパンダのような獣)は、異世界から我々のいる世界へと降り立った。
彼らはそれまで魔法を学んでいたが、SFUに現れたことで新たな目的を持つことになった。「Studio SIATのVアンバサダーは、定期的なライブ配信や長編・短編コンテンツを通じて、学生たちや教員、卒業生が成し遂げた素晴らしい活動を紹介していきます」。
今回我々はモォとフェイ、そしてStudio SIATのマネージャーであるJ Tseng氏に注目し、彼らの活動についてくわしく知ることにした。
モォとフェイが世間にお披露目
「2つの素晴らしいデザインのどちらを選ぶか、責任者が決めきれなくて……というのは冗談ですが」とJ氏は語る。
「アンバサダーが2人いることで、SIATの学生像や、当校が提供する多様で学際的なトピックををより幅広く象徴できると考えています。正直なところ、デビューの際にひとりだけで寂しくならないようにするためでもあります!
また、この革新的なプロジェクトにより多くの学生が参加できるようになり、スキル構築、実践的な学習、コミュニティとの関わりの機会が増えることにもつながります」。
モォとフェイがSIATの看板キャラだということは理解できた。では、彼らの存在はVTuber界隈にどのような影響をもたらすのだろうか? 我々はJ氏に、モォとフェイの存在がVTuber業界全体にどのような影響を与えるかについて尋ねた。
「アジアでは現在、VTuberはメジャーな有名人として、さまざまなメディアで多様な役割を果たすようになっています。しかし、北米におけるVTuberはいまだにニッチな存在であり、主にエンターテインメントに特化しているのが現状です」とJは語る。
「SIATの目標は、従来のコンテンツクリエイターやストリーマーと北米のVTuberのエンタメ理解のギャップを埋め、VTuberの限界を押し広げることです。この目標は、モォとフェイが制作するコンテンツの方向性とも一致しています。
彼らは単にゲームやメディアの配信をするだけでなく、将来的にはARやVR、MRといった技術を活用して、現実空間を探検したり、現実世界にいる人たちにインタビューを行ったりする予定です」。
モォとフェイはどのようにして誕生したのか?
モォとフェイは故郷の世界からポータルを通じてSFUにやって来たことになっている。しかしここではメタな話として、彼らのキャラクターを演じる人物がどのように選ばれたのかを尋ねてみた。
ふたりを代表してモォが答える。
「私たちが受けたオーディションは、既存のVTuber企業が行うものとあまり変わらなかったと思います。
30人以上の学生のなかから、フェイと私は4段階の選考を経て選ばれました。書類選考、自己紹介とスキル確認を兼ねたコンテンツの作成、ライブ配信での実技審査、それと行動面接です。審査員は何人かいて、たぶん学生と関わりのない外部の人だったと思います。公平性を保つためですね。正直、すごく大変でした!」
モォは、キャラクター制作のプロセスについても少し語ってくれた。
「キャラクターに関しては、デザインをはじめ、バックグラウンドや性格にもある程度こちらで決められる自由がありました。実際の私たち自身により合ったものにするためです。
オーディション通過後はアートディレクターや脚本チームとも協力して、キャラクターを自分たちにより合ったものにする提案をしました! もちろん、私は(人間の姿になっても)耳としっぽは絶対に残すように主張しました」。
モォのインスピレーションの源: 教育系の長編コンテンツクリエイター
オーディションの件と合わせて、彼らのVTuberに関する知識についても尋ねてみた。
「正直に言いますね。私は今でもVTuberを見ていません。ストリーマーの配信すら見ないんです!」とモォは強調する。
数年前、彼女はVTuberに初めて触れたが、それは疑似恋愛体験を提供するコンテンツだった。そのため、最初はこのジャンルを「イタい」と感じていたという。しかし、時が経つにつれ、彼女がVTuberと関わる機会は増えていった。
「VTuberが何かはよく知っていたし、切り抜き動画を見かけることもありました。私の友人にはインディーVTuberをやっている人が何人もいますし、企業VTuberと一緒にイベントで仕事をしたことだってあります!
いま振り返ると、友人や家族から『VTuberに向いてるんじゃない?』とは言われていて、むしろ私がまだやっていなかったことに驚いていました。そして今、私は彼らの言うとおりになっているわけですね」。
とはいえ、モォのYouTube視聴歴を侮ることはできない。
「私はどちらかというと中~長尺のコンテンツを好むタイプで、特定のスキルや知識を提供するクリエイターが大好きなんです。例えば、Captain Disillusion、Medlife Crisis、MattKC、About Here、camwing、Doodley、WIREDといったチャンネルですね。
でも、コメディ・バラエティ系のクリエイターも好きで、例えば、Jacksfilms(超老舗YouTuber!)、Let’s Game It Out、Dropout(旧CollegeHumor)のキャストなどがいます(コメディも一種のスキルですから!)」。
「…そう考えると、教育系のクリエイターたちは、私がVTuberとして価値のあることをしたいと思うきっかけになったのかもしれません。単にモォというキャラクターを見るためではなく、配信の内容そのものが面白くて価値があり、時間を割くに値するものにしたいんです。
一方で、お気に入りのコメディクリエイターたちは、私のゆるくて楽しいスタイルやユーモアのセンスに影響を与えています」。
結局、モォはリサーチのためにVTuberを見ることになる。
「このVアンバサダープログラムに関わるにあたって、リサーチとしてかなりのVTuber配信を見ました。彼らが演じるキャラクターと本来の自分とでどのようにバランスを取っているのか、どんな活動をしているのか、配信中にどのように振る舞っているのか。
特にデビュー配信でどのように振る舞うのかを理解するために見ていたんですが、デビュー配信のフォーマット自体が私にはまったくなじみのないものでした(笑)」。
フェイの目標: 「謎解き」ジャンルをVTuberの世界に持ち込む
モォと同じく、フェイの周りにもVTuberをしている友人が何人もいた。
「個人的には、Vアンバサダーになる前はVTuberにあまり興味がありませんでした。でも、周りにはVTuberをやっている人がたくさんいたんです。
実は、VTuberモデルを作っている友人から『オーディションを受けてみたら?』とか『VTuberになったら?』と勧められたことがあったんです。数年前の話ですが、ある意味それが一周した感じですね。その後、VTuberのコンテンツを少しずつ見るようになりました。主に切り抜き動画や、気になるコラボがあるときに配信をチェックしています。
とはいえ、今でも私の主なインスピレーションの源や創作のルーツは別のところにあります。今回のオーディションでは、私自身のゲームやパズルデザインに対する関心をアピールすることも求められました」とフェイは語る。
「私がパズルを作るうえで一番影響を受けたのは、松丸亮吾さんです。彼はRIDDLER(リドラ)という会社の創設者兼CEOで、日本には『謎解き』というパズルジャンルを作るクリエイターがたくさんいます。欧米ではあまり見かけないジャンルで、もし自分がコンテンツクリエイターになるなら、ぜひこの分野を紹介したいと思っていました。
だからオーディションの準備をするときも、VTuberがどんなコンテンツを作っているのかを調べるよりも、謎解きの要素を英語圏向けのオーディション動画にどう落とし込むかを考えることに時間を割きました。幸い、審査員の方々がその点を評価してくださり、こうして今ここにいます」。
Studio SIATのWebサイトでは、Fayeが手がけた代替現実ゲーム(alternate reality game、ARG)が公開されており、誰でも挑戦できるようになっている。
「この役をもらった今、当然ながら謎解きだけではなく、VTuberとしての要素がコンテンツ全体に何をもたらすかを考える必要があります。フェイとしての具体的なプランはまだ固まっていませんが、自分の関心や情熱を、VTuberならではの方法で表現できたらいいなと思っています。
それがどんな方法なのか? 今のところは分かりません。でも、このポジションとチャンスを最大限に活かしたいと思っています」。
彼らが(学校を)卒業したらどうなる?
VTuberの世界には、キャラクターの背後にいる演者に関するタブーが存在することは誰もが知っている。
このプログラムが学生の入れ替わり制になる可能性があることを考えると、現在の演者が卒業するとき、SIATはVTuberのアセット(キャラクター設定やモデルなど)を保持し続けるのだろうか?
「SIATのVアンバサダーになったら一生Vアンバサダーである、と私たちは考えています。ですから、たとえVアンバサダーが卒業したとしても、彼らが視聴者を社会人としての旅に連れて行ってくれたら素晴らしいと思っています!」とJ氏は力説する。
「最初のVアンバサダーの講座を作るのには大きなコストがかかりましたが、Studio SIATチームにとっても素晴らしい学びの機会になりました。
学生に1人のキャラクターを交代で演じさせることはありません。Vアンバサダーが良好な関係のもとで卒業する限り、1年以上の活動を経た後は、モデルとキャラクターをそのまま所有できるようにしたいと考えています。
Vアンバサダーの卒業生たちが、インディーVTuberとして活躍したり、あるいは企業VTuberになったりすることを私たちは願っています。今回の第一期生の経験を通じて、今後の学生たちにも、VTuberのデザインやモデリング、リギングの機会を提供できるようになります」。
現在、プログラムには3種類のモデルアセットがある。モォ・フェイ・キャプーだ。モォとフェイはバーチャルアンバサダーだが、キャプーはすでに昨年から使われている。
「視聴者層をイメージした可愛らしい教育用アバターとしてカップーを制作しました。学生・教員・ファンなど、誰でもカップーになれます。カップーは話しません。ただそこにいて、何かをするだけの存在です」。
現在、そして将来の目標
アカデミア出身のVTuberであるモォとフェイを抱える組織として、SIATの現在、そして将来の目標について尋ねた。
「SIATの目標は、モォとフェイをキャンパス文化に取り入れ、学外での広報アンバサダーとして活動させ、SIATの学生たちが自身の学生生活を反映したユニークなコンテンツに関わる機会を提供することです。さらに、モォとフェイを学生が作るゲームやアニメのプロジェクトにも参加させる予定です。
私たちは、学生に需要が高く実践的な制作スキルやその工程、技術を提供することを非常に重視しています。そのため、モォとフェイが、SIATがいかに革新的なバーチャルプラットフォームを取り入れている教育環境であるかを象徴する存在になってくれることを期待しています」。
モォとフェイの配信はSFU SIATのYouTubeチャンネル で視聴できる。モォとフェイ、SFU SIATについてさらにくわしく知りたければ、以下のプラットフォームを参照してほしい。
X(旧Twitter): Mo / Faye / Studio SIAT / SFU SIAT
Bluesky: Mo / Faye / SFU SIAT
MoとFayeのデビューについて我々が最初に知ったのは、SFU SIATのアートディレクター・Chockie氏のRedditへの投稿である。
※この翻訳記事のサムネイル画像はSFU SIATの動画サムネイルから作成しました。