Maru De Cinco、VTuber界の「希望のヒーロー」 【翻訳転載】

Note

 本記事は海外のVTuber専門Webメディア「VTuber NewsDrop」の記事を、許諾を得て翻訳・転載したものです。


Maru De Cinco、VTuber界の「希望のヒーロー」

Maru De Cincoは人生を通じて多くの旅をしてきたが、VTuber活動がそれを一本の道に束ねてくれた。

By Andrew Amos (2023/7/15)

 Maru De Cinco(まるで人工)の人生は、紆余曲折を経てVTuber活動へと行き着いた。その経緯はいろいろありすぎて、1回の短い紹介ではカバーしきれないほどだ。

 10代後半にアルゼンチンからアイルランドに移住して以来、さまざまなコミュニティに出入りしてきた。彼女はプロの翻訳者であり、スタンダップコメディアンであり、そしてエンターテイナーでもある。

 「流行に敏感なヒップスターの音楽シーンに、少なく見積もってもかなりのあいだ入りびたっていました。その間にどれだけのサブカルチャーに関わったのか、自分でもときどき忘れてしまうくらいです。パンクだとか、不法占拠者のようなシーンにもいましたね」と彼女は笑う。

 しかし、アニメとその関連コンテンツは絶えず近くにあった。オタク界隈での付き合いはなかったが、Maruがアニメを評価していなかったわけではない。ラテンアメリカで育った彼女にとって、アニメはどこにでもあるもので、そのブーム到来は英語圏よりもはるかに早かった。

 たとえば『聖闘士星矢: Knights of the Zodiac』はラテンアメリカ以外の人々にはあまり知られていないかもしれないが、Maruの心に響いたのはそういうアニメ作品だった。

 「私はずっとアニメファンで、たくさんのアニメを見てきましたが、アニメのファンコミュニティに飛び込んで、その中で自分と同じような仲間を見つけたのはVTuberになってからです」。

 それまでの遍歴とさまざまな経験は、彼女ならではのキャリアにもつながっている。翻訳の仕事ではゲームのローカライズを手がけたほか、ニューヨークのハシディック派(※)ユダヤ人コミュニティを描いた映画の字幕制作を手伝ったこともある(友人の助けを借りながらではあるが)。

【※訳者注】 ハシディック派(Hassidic):ユダヤ教の一派。「超正統派」とも呼ばれる。

 読者の皆さんにはお馴染みの日英翻訳にしっかり取り組んでいるわけではないが、日英翻訳でなくとも重なる点はたくさんある。

 翻訳はそれ自体が一種の芸術だが、誤解されることがあまりにも多い。

「VTuberだけでなく、普通のアニメやゲームを見ていても歯がゆいことがたくさんあるし、誤解も多いです」。

 「『アニメの翻訳者は特定の訳語に押し込めようとしたり、意訳しすぎたりしている』という意見があります。例えばミームを使ったりだとか、人によって好き嫌いが分かれる表現や、ありきたりの言い回しで訳しすぎるということですね。

 ある言語の文章の意味を別の言語で完璧に伝える唯一の方法は、実際にその原語を学んで理解することです。文化的なニュアンスを完全に伝える完璧な翻訳なんて存在しないので、翻訳者としてできることは元の意味に近づけることだけだからです」。

 Maruのもうひとつのワイルドな遍歴は、スコットランドでもっとも大きなクラブをスタンドアップコメディで渡り歩いたことだ。サッカーやLGBTなどの話題を、ギャグを織り交ぜた完璧な“タイト・ファイブ”で5年間にわたって披露していた。

 これがエンターテイナー、Maruのルーツである。

 「スタンダップコメディというのは、知らない人からしたらソーセージを作るのなんて楽そうに見えるのと同じです。優れたコメディアンは、ステージに上がっただけで魅力的で面白そうだと思わせることができるんです。

 私は昔から人を笑わせるのが大好きでした。最初にそう言っておくべきでしたね。ステージに上がって、会場の人たちを笑わせたりトークをしたり、そういう場を盛り上げるのはとても楽しいことです。

 そして最後の公演では……引退してVTuberになるということを少し話しました。

 友人の何人かが私を説得してくれたんですが、彼らは私のことをストレートに褒めてくれたんです。『これこれこういうところが、あなたがこの仕事に向いていると思う理由だ』ってね。私は本当に、本当に感動しました」。

 配信業が軌道に乗ったころ、彼女は昔からの趣味のひとつであるプラモデル作りに喜びを見出した。彼女は子供の頃からガンプラを作り続けており、90年代にはプラモデルに夢中になった。

 しかしVTuberである以上、Webカメラをつけてライブをすればいいという単純なものではない。特にホビーリンク・ジャパンがスポンサーになってからは、カメラで手元を映しながらのガンプラ制作配信をよく行っている。(VTuberとしては)ギリギリの配信スタイルだが、これは彼女自身も気づいていなかった、コミュニティのニッチな需要に応えるコンテンツだ。

「私がすぐに気づいたことのひとつは、こういうコンテンツを見たい人はたくさんいるのに、実際にはあまりやられていないジャンルだということです。そして(実際にやってみたら)、数字はかなり伸びました。

 私はプラモデルを作るのが本当に大好きなので、それが私のメインコンテンツになりました。 ガンプラはプラモデルの一種ですが、ガンプラ以外のプラモデルも作りますよ」。

 この経験は最近、彼女の初めての本格自作モデル「プロジェクト・ポム(Project Pomu)」で実を結んだ。「30 MINUTES SISTERS」のキットと自作キットを組み合わせて、彼女が大好きなNijisanji ENのライバー、ぽむ れいんぱふ模型で再現したのだ。

 「当初の計画では、今までのガンプラ配信と同じような流れで考えていたんです。『うん、あまり派手なことはしないぞ』という感じでね。ただ、使えそうなものは何でも組み合わせて、ぽむ本人に一番似たものを作ろうと思ってはいました。

 でも、プロジェクトが終わるころには『できるかぎり最高のポムを作るぞ』ってなっちゃってましたね」。

 彼女は自分のクリエイティビティの限界に挑戦し、専用の道具を手に入れ、象徴的な蝶形のリボンやエルフ耳といったパーツをエポキシパテで作った。その結果、小人サイズの妖精の見事なレプリカが完成し、何千人ものファンに喜ばれた。これに勝る喜びはないだろう。

 「とにかくとても楽しかったです。学びたいことをすべて学んで、面白いオリジナル作品をようやく作ることができました。

 こんな風にぽむを自作している人は他に見たことがありません。我ながら『なんでここまで?』とも思うんですが、私にはそれができるし、今後もこんな感じで自作をやっていこうと思います」。

 加えて、チャリティー活動がある。彼女は数多くのチャリティー配信に参加し、Cure Alzheimer’s FundGamers Outreachなど、さまざまな目的のために数千ドルを集めている。

 彼女は専業でVTuber活動をすることなく、これらすべてをこなしている。現在、彼女は学位論文に専念しているが、一方でさまざまな活動を支援し、人々を笑わせ、自身の肩書きに恥じないような将来を見据えている。

 「私は“希望のヒーロー”なんです。私は自分のコンテンツだけで生計を立てられるような人間ではありませんが、それでもこうして人々を助け、チャリティーで何千ドルも集める手助けができるんだと。

 とっても楽しいです。多くのことを学べるし、いろんな人に会える。素晴らしいことです」。


 Maru De Cincoの物語について、Behind The Modelの動画(以下)でもっと知ることができます。


※この翻訳記事のサムネイル画像は、Maru De CincoのX(旧Twitter)のアカウントヘッダー画像から作成しました。