VTubers I Loveが生み出す、ユニークなVTuber切り抜き動画 【翻訳転載】

Note

 本記事は海外のVTuber専門Webメディア「VTuber NewsDrop」の記事を、許諾を得て翻訳・転載したものです。


VTubers I Loveが生み出す独特な切り抜き動画ブランド

VTubers I Loveは「個性的な存在になる」という決断が功を奏し、顔の見えない「切り抜き師」以上の存在になっている。

By Andrew Amos (2023/6/13)

 彼はおそらく、“中の人”の存在が知られている唯一の「VTuber切り抜き師」だ。

 「VIL」の愛称で知られるVTubers I Loveは単なるあだ名ではないし、彼がお気に入りのVTuberのキュートなプロフィール写真のことでもない。マーケティングのスペシャリストからフルタイムのVTuber切り抜き師に転身した彼は、今や確固たるブランドを確立している存在だ。

 この気難しいクリエイターは仲間のLIV(VILを逆から読むことを意図したものではない)と一緒に、自身でも配信業を始めた。それ以前から彼はTwitterであちこちに出没し、大好きなVTuberたちと交流を深めていた。

 多くの人がそうであるように、彼もまたホロライブを通じてこのメディアにハマり、前職時代は熱心に切り抜き動画を見ていたものだった。しかし時間が経つにつれ、VILは「他の人に見つけてもらいたいVTuberの切り抜き動画を自分自身で作ってしまう」という方法があることに気づいたのだ。

 しかし、以前のような「顔の見えない」存在になることだけは避けたかった。そこには彼のマーケターとしての顔が現れていた。

 「多くの切り抜き師は、あまり前向きな性格ではないように思えたんだ。彼らはたいてい、動画を切り取ってYouTubeに投稿しているだけだった。切り抜き動画チャンネルを運営している“中の人”のことを知っている人はあまり多くないから、『自分が橋渡し役になれるかもしれない。一人の人間として、切り抜き師としての僕をみんながもっと知る機会になるかもしれない』と思ったんだよ。そうすることで僕自身も「わけのわからないヤツ」ではなくなるしね。

 始めてから4、5か月で上手く行きはじめたのはラッキーだったし、あまりに上手くいったんで『なあ、フルタイムで切り抜き動画作りに全力投球したらどんなことができるのか試してみようぜ』みたいな感じだったね」。


 VTuberの切り抜き動画は、お気に入りの配信者を見て、そのハイライトシーンを共有するだけではない。その技術を完成させた人はまだ誰もいないとVILは信じているが、その裏にはちょっとしたやり方があるのだ。

 もちろん動画編集もそのひとつだ。ただし、切り抜き動画を翻訳する場合は字幕を付けるだけでなく、その字幕はYouTubeで読みやすいように短くまとめる必要がある。実際の配信でのトークには不必要な間が多いものだが、切り抜き動画は簡潔な表現で、最後に気の利いたオチをつけるとより効果的だ。

 切り抜き師たちがどのような方針で動画を編集するか、VILは常に楽しく注目している。

 「みんなの仕事ぶりには、いつも感心させられるよ。切り抜きチャンネルにはそれぞれ独自の編集スタイルや、好みの切り抜き動画の投稿パターンがあるんだ。

 そしてそれはキュレーションでもある。自分のチャンネルに来た人が、特定の切り抜き動画を気に入ってチャンネル登録してくれる可能性があるからね。そうした視聴者を増やすのは、ある意味僕らの仕事なんだ。自分が作っているのはどのVTuberの切り抜き動画で、そのVTuberを選んだ理由はなぜなのか?

 僕のフルネームはVTubers I Loveだけど、この名前にした理由は、名前を見ただけで僕がVTuberの切り抜き動画を作っているんだってわかるようにしたかったから。そして僕自身もコンテンツクリエイターとしてVTuberを楽しんでいるからでもあるんだ」。

 VTuber界隈では、VTuberと切り抜き師の関係について多くのことが語られてきた。「無料マーケティング」という言葉が使われるようになり、多くの人がそれをメリットととらえている。 一方で、批判的な人々はきわどいコンテンツや、いわゆる「釣り動画」に目を向けている。

 VILのような切り抜き師がVTuberに依存していることは否定できない。しかし同様に、VTuberの側も露出が増えることで大きな利益を得ている。VILは、それが切り抜き動画のエコシステム、特に彼が注目するインディーズVTuber(≒個人勢)のエコシステムを面白くしている部分だと指摘する。

 「僕のコンテンツは、彼らの活動なしには成り立たない。だから、彼らの仕事が一番大事なんだ。自分の切り抜き動画が誰かの役に立って、そのVTuberのリーチが増えるならとても嬉しい。でも、そういうのって自分の手柄とはされないんだよね。

 僕の切り抜き動画は価値があると思うし、人々の目に触れさせるのに役立っているとも思う。でも、そもそも彼らが配信や配信のためのコンテンツ作りをしてくれなければ、僕には切り抜くものがないわけでさ。

 僕らが共生的な関係であることは間違いない。僕自身もVTuberの側もある意味助かってる。(知名度が)まだ低いときに切り抜きして、僕が切り抜きすればするほどそのVTuberの知名度は上がり、知名度が高くなればなるほどその人のフォロワーが増える。そうすると僕の切り抜き動画を見たいと思う人も増えて、そうした人たちがまた僕のところにやって来てくれるんだ」。

 VILの切り抜き動画は、多くの切り抜き師が作る動画とはかなり趣が異なることに気づくだろう。彼は長時間の配信が好きで、お気に入りの配信者のハイライトシーンを5分程度で切り取ることが多い。一方で、彼の最も人気のある切り抜き動画のなかには、複数の配信をまとめた切り抜き動画や、ひとつの配信だけから作った切り抜き動画で20分にも及ぶものもある。

 「自分のコンテンツがベストなやり方なのかどうか、時々疑問に思うことがあるんだ」と、彼は口にする。

 「もっと動画を短くしたほうがいいのかな、と思うこともあるよ。でも、なぜ今のスタイルを選んだのか、なぜそれを貫いているのかというと、本筋から外れたちょっとした面白い箇所だけを切り取って、それをつなぎ合わせるようなことはしたくないから。

 僕の切り抜き動画のほとんどは、VTuberが自分の人生について語るものだったり、思い出やその日に起こった面白いことを語るものだ。そういうのは30秒に切り抜けないでしょ? たいていの場合は“濃い”エピソードになっているからね。

 短い切り抜きで、面白くてちょっとエッチなやつとか、そういうのが出てくることもあるよね。それはそれで素晴らしいと思うよ。でも、僕の切り抜き動画は、例えばランチのときに座って短編小説を読んでいるような、まるで誰かと会話しているような、あるいはVTuberの人生について学んでいるような、そんなものかもしれないなと」。

 それがベストな方法かどうかは別として、VILはこのやり方で切り抜き動画を作り続けている。ある意味、VILは第三者的なストーリーテラーであり、配信が消え去った後も歴史として保存される記録を書きつづっているのだ。

 VILの切り抜き動画には、そうした彼の哲学が取り入れられている。彼の新しいヴェイパーウェイヴ・ ヴァイビング配信(Vaporwave Vibing、※)は「コンサートのVIPルーム」のようなもので、彼のよく知られた切り抜き動画もそのスタイルに沿っている。

ヴェイパーウェイヴ(Vaporwave):音楽の一ジャンル。

 そして、VTuber業界が成長し続けるなか、彼は常に自分が愛する次のVTuberを探し、彼ら/彼女らのストーリーを世界と共有するつもりでいる。

 「毎日、新しいVTuberがデビューしているんだ。しかも誰が次の大人気VTuberになるかはわからない。

 たとえ彼らが次の大人気VTuberじゃなかったとしても、彼らにスポットライトが当たるのは当然だと思う。なぜなら、誰もがユニークな何かを持っていて、その“何か”は視聴者が共感できるかすらわからない、ダイヤモンドの原石かもしれないからね」。


 VILの全容は、Behind The Modelの動画(以下)でご覧ください。


※この翻訳記事のサムネイル画像は、VTuber I LoveのTwitch動画のスクリーンショットから作成しました。