論説:NIJISANJI ENの拙いマネージメントはさらに多くの悪党を生んだ【翻訳転載】

Note

 本記事は海外のVTuber専門Webメディア「VTuber NewsDrop」の記事を、許諾を得て翻訳・転載したものです(記事中で使用している画像は訳者が独自に用意したもの。元記事とは異なる場合があります)。


論説:NIJISANJI ENの拙いマネージメントはさらに多くの悪質な人たちを生んだ

「組織の中には悪いレッテルを貼られて苦しんでいる人がいる。そもそもこれも運営側に管理能力がないからだ」。

By Jay Agonoy (2024/2/22)

画像:Andre Hunter / Unsplash

やあ皆さん。こうして朝早くからこの原稿を書いていますが、VTuber関連で本来語られるべきもっとポジティブな話題にさっさと移りたいので、これがNIJISANJI ENについて書かなければならない最後の記事になることを切に願っています。

なお、今回の記事にはデリケートな話題も含まれます。あらかじめご了承ください。

 NIJISANJI ENが視聴者の大半の信頼を失ったとき、あなたはどこにいただろうか。私はNIJISANJI ENが擁するVTuber、セレン 龍月(Selen Tatsuki)の最新情報を自宅で待っていた。ファンたちが「#WhereIsSelen」のハッシュタグで彼女の状況を尋ねているのも見ていた。彼らはXに投稿するごとにますます焦っていくようだった。

 Selen Tatsukiの契約解除とそれにともなう運営側の動きは、NIJISANJI ENにとって最悪の事態の始まりだった。ちなみに、ブルームバーグ・ターミナル(Bloomberg Terminal)に投稿されたゴールドマン・サックスのレポートによれば、NIJISANJI ENはにじさんじ全体の売上の19%を占めているとのことである。

 私たちはランザー罪恩(ランザー ザイオン、Zaion LanZa)がNIJISANJI ENから追い出され、彼女が事務所所属のVTuberには向いていなかったという前例を見てきた。そのZaionの件を思い浮かべながら、2023年の年末直前の「Last Cup of Coffee」MV公開が大問題になったとき、私はBBCをまねて(※1)、Selenが契約解除された場合に備えて彼女への賛辞を用意していた。

 そして悲しいかな、避けられないことが起きた。Selenは本当に契約解除されてしまったのだ。しかし、私も皆さんと同じく、NIJISANJI ENが数日、あるいは数週間も身動きが取れなくなるような事態になる歴史的な契約解除通知を発表するとは予想していなかった。

 Zaionが解雇されたときと同じく、NIJISANJI EN運営はSelenが違反した問題の膨大なリストを作成し、そのすべてについて対応を検討していた。彼らは2023年5月にSelenに対し、いわゆる「活動ルール」に違反し続ける場合は解雇すると警告した。

 NIJISANJI EN運営はまた、“コーヒー事件”について運営が事前通告に従って動画を非公開にした際のセレンの対応を挙げつつ、彼女の契約解除までの流れを時系列で示した。しかし、ファンがSelenのために結集するきっかけとなったのは、その解雇通告の中に記された2つの節だった。

しかし、本人はこれに応じず、ANYCOLORの判断に起因してライバー活動ができなくなった、ANYCOLORに所属する他のライバーからハラスメントを受けており、それはANYCOLORのマネジメント不備が原因である、などとして、ANYCOLORに対して法的な責任を追及するとともに、交渉が進展しなければ『自身の状況等』について公に説明を行う、といった主張を行うにいたりました。

 「Selen Tatsuki」本人が、活動ルールに違反していたこと、また、その違反の責任をANYCOLOR又は「NIJISANJI EN」に転嫁したことで、ANYCOLOR及び「NIJISANJI EN」自体のイメージは著しく毀損されました。ANYCOLORから「Selen Tatsuki」に対してはこれらの点について注意喚起を行ったものの事態は改善せず、ANYCOLOR・所属ライバーと「SelenTa tsuki」との間の信頼関係は悪化するにいたりました。ANYCOLORとしては、「Selen Tatsuki」のANYCOLORに対する上記主張は、ANYCOLORから「Selen Tatsuki」への注意等の過程で生じた出来事を指すものであると認識しており、ANYCOLOR及び所属ライバーとして、不当な対応は取っていなかったものと確信しています。

にじさんじの公式声明文

 ANYCOLORにとって、Selenの契約解除は残された唯一の選択肢だった。Selenがこのことを知ったのは、現在は個人VTuberとして活動を再開しているSelenの“友人”、Dokibird(Doki)を通じてだった。

 DokiはすぐさまXで「私はもう黙っていない」と発言し、その後、彼女が何か月にもわたっていじめを受け、有害な環境にいたことで鬱積したフラストレーションから入院していたことがわかった。

 人々はその兆候を目にしていた。Selenとして彼女が立てていた計画(ゲーム大会やアートコンテストの開催)は運営によって却下された。そしてMV「Last Cup of Coffee」投稿後、運営から即座に公開停止処分を下されたことで彼女は我慢の限界を超えた。

 NIJISANJI ENの原動力の一人であり、ホロスターズのタレントとの事務所間コラボを実現して歴史的な「Team Snake Bite」を生んだ張本人であり、VRChatのいくつかのプロジェクトの立役者であり、仲間の窮状や仲間が与えてくれる価値を理解しているアーティスト。そんな彼女が去ってしまい…完全に私たちの前から消えてしまうところだった。

 Selen(現Doki)が推しマーク(※2)を取り戻し、ファンたちも竜騎士(dragoons、※3)の名を取り戻すと、彼らはSelenのために結集した。彼女は他の人たちとより自由にコラボできるようになり、「ポケモン」と口にすることもできるようになった。現在、彼女はTwitchで『パルワールド』をプレイする予定だ。彼女の復帰配信は視聴ランキングのトップに上りつめ、VTuberの歴史を作った。

 運営側に問題がありそうなのはどう考えても明らかで、さらに3人のENライバーに動画(きっかり15分)で話すのを許可したことで、それはいっそう鮮明になった。動画は彼女の名声を語るものではなく、恐怖と不安と疑念の15分だった。私は彼らがそんな風に話すのを聞きたくはなかった。

 ANYCOLORが投資家たちに「(Selen Tatsuki契約解除に関して)これが当社業績に与える影響は極めて軽微であります」と言ったときもそうだった。私はすでに運営を信じられなくなっており、CEOの田角陸氏が会社のために行動を起こすのを待っていた。

 そして田角氏は動画を公開した。彼は現在もっとも若い億万長者の一人だが、この若さでヨットを所有しているかどうかは今回も確認できなかった(※4)。たしかに、彼は謝罪に来たことを示すために英語で話し、90度に頭を下げた。よほど重大な事案でない限り、そんな深々としたお辞儀は日本の重役には要求できない。

 この二度目の発表の数日後、同社は約18%という“軽微な”株価下落を被った。何十万人ものファンがチャンネル登録解除やボイコット、嫌がらせで応戦した。拙いマネジメントがもたらした結果がこれである。

 私たちはこれまでに数々のまずい管理のケースを見てきた。私の地元ではKoMETA(恥を知れ)、もう少し広い範囲ではProject FAkioAIR(もっと恥じろ)、地球の裏側ではOWOZU(お前も恥を知れ)がある。そしてもちろんWACTORもだ(視聴者を3回も馬鹿にしようとした罪で地獄に落ちろ)。

 これらの組織にはすべて、適切な運営資金の不足、きつすぎる作業と配信ノルマ、不十分な業務分担、悪しき労働文化、人権を無視するような要求や脅しなどが含まれる。(これらに比べたら)みけねこが抱えていたジレンマなど私たちが心配するようなことではなかった。

 デリケートな性質のため公に話すことはできないが、こうした状況を受けて、私は最悪の事態も覚悟した。だが、ここVTuber NewsDropで起こったことと同じく、私たちは休憩を取る必要があった。確かに、私たちは問題を見失いかけていた。私は陰謀論者の大げさな物語を信じ始め、人間であることを忘れてかけていた。

 Dokiがとてもいいことを言っている。「…エゴや何かを勝ち取るために、命であれなんであれ危険にさらすべきじゃない。今回のことには勝者なんていない。高校生のようなことはしないでほしい。誰に対しても大人のように、共感と優しさを持って接してください」。

 反撃したい気持ちが強くなって、Dokiに「(相手の)名前を教えてほしい」とお願いしたくなる気持ちがたびたび襲ってくる。「Selen Tatsuki事件」は今や世界を巻き込み、VTuberという地獄にみんなを歓迎するかのような印象を与えてしまっている。

 しかし、Dokiはこうも言っている。「私的な文書を公開したりその内容を詳しく話すと、外部が関与することで事態がより悪化して、みんなを傷つけるだけです」。

 この件は弁護士に任せるべきだと理解はしているが、責任者には説明責任を果たしてもらいたい。そうしないとこのサイクルが延々と続くだけだ。 問題は、Dokiが一部のリベンジポルノ愛好家の言いなりになってしまったら、事態はさらに複雑になってしまうということだ。

 今日のVTuber界隈では、誰かの悪行を非難するとき、「相手には迷惑をかけないで」と前置きする。これまで何度も繰り返されてきたことだが、私はこれにうんざりしている。結局のところ、その非難された相手がどう言ったところで、やはり嫌がらせを受けてしまっているからだ。

 もしあなたが誰かの悪行を(絶対的な証拠をもって)非難した場合でも、周りはあなたの言うことを聞き、慰め、相手をあざ笑い、さらに悪いことには実際に嫌がらせをするだろう。

 私は芸能界と同じようなものを求めてVTuberの世界に加わったわけではない。ほら、ライバーたちですらもう我慢できないという感じで声を上げ始めている。だがそれもやり返されるだけだ。こんなのは普通ではない。

 ここ数週間、ニュース系YouTuberやその他のコンテンツクリエイターたちはこの件を「必死に飯のタネにしている」。次から次へと動画を作り、この話題について語り、視聴者の興味を引いている。それはまるで動物パーティーのようで、ウサギ男ポニー(けっしてアンドロイドではない)、オウムアヒル(私たちの仲間・Duckyのことだ)、そしてウマ娘などが、それぞれの意見を表明している。さらには弁護士までもが登場し、現行法の知識に基づいて法的見解を述べながら、理論上はありうるシナリオで私たちを楽しませてくれる。

 彼らにとってそれはいいビジネスなのだから、私には何の問題もない。しかし、私は自分自身に課したルールのせいでこの問題に足を踏み入れられないことにイライラしている。もし私がこの流れに乗ったら、意気地なしのヘイター(spineless hater)だとか、荒らしだとか、なんちゃら(whatchamacallit)とかいうレッテルを貼られるだろう。そしてもし私が他とは違った主張をしたら、今度は擁護論者だとか言い訳がましい人(apologist)と呼ばれることだろう。

 触れれば叩かれ、触れなくても叩かれる。しかし実際のところ、これらのポリシーが設定されていなければ、このメディアを舵取りすることはできない。

 私はそうした言説やその語り口にハマって心をかき乱され、しまいには「なんでそんなものを読んでいるのか」と非難されもした。その質問にちゃんと答えることもできないので、この問題についてはもう気にしないことにした。

 しかし、間接的な気まずさに加えて、つらい気持ちは今でも残っている。これが拙い運営があなた方や所属タレント、そして視聴者に与える影響なのだ。

 なあNIJISANJI ENよ、私があなたたちに心から話すのはこれが最後だ。

● ENライバーによるARライブコンサートを発表したときのことを覚えているかい? それは結局実現しなかった。

● Zaionを契約解除にし、彼女をひどく間抜けに見せたときのことはどうだ? 私は初めて彼女に出会ったTwitchでの「Words on Stream」の配信が今でも大好きだ。

● あるいは、NIJISANJI EN所属を打診するにあたってサイ・ユー(Cy Yu)に声優の仕事を辞めるよう頼んだときはどうだった?(下の動画、※5)

● ぽむ れいんぱふに最高の生きかたをさせず、オタクとしての夢のコラボを実現させてあげられなかったことについては?

● あなた方のCEOである田角陸氏が、投資家に対して「(引退することは)そのライバーの可能性を無駄にしている」と嘆いたことについてはどう思う?(※6)

● 一度ならず二度までもSelenの企画を止めさせたことについてはどうだい? 愛するファンに対して傲慢な態度をとったことを後悔しているか?

● 素晴らしい関係を築いてきたインドネシアのファンを裏切ったことについてどう思う?

 NIJISANJI ENにも人間がいることを忘れて語るのは、これが本当に最後であることを祈る。

 推しメンを描き続け、公の場で差別を受けるファンがいる(そんなことをする奴らは恥ずべきだ。私は彼らが知っている言い回しで彼らを辱めることだってできる)。

 NIJISANJI ENのファンとして素晴らしい仲間を得た、様々なアイデンティティを持つ人たちがいる。彼らは仲間との絆を深め、こんなにひどい運営体制なのにもかかわらず、中には推しのコスプレをして楽しい時間を過ごしている人もいる。

 組織の中には悪いレッテルを貼られて苦しんでいる人がいる。そもそもこれも運営側に管理能力がないからだ。

 Dokiは言う、「追い詰められるいわれのある人なんて誰もいない。たとえ罪のない傍観者であったとしても、多くの人が傷つき、巻き込まれている」。

 ヨットのことなんてどうでもいいし、田角氏が投資家の前で土下座して平謝りしようがどうでもいい。損失が軽微だろうがどうでもいい。推しのNIJISANJI ENライバーがいた古き良き時代に連れて行ってほしい。ぽむが私たちにMIXを教えて良い雰囲気を広めていた時代に戻してくれ、くそっ!

 ANYCOLORがEN支部を本体に統合するようなことになれば(インド発の最初のEN勢はまさにそのテストだったように感じられる)(※7)、日本の株式会社として本社に財務の舵取りをしてもらうことになるだろう。

 たしかに彼らはNIJISANJIに留まることはできるだろうが、その代償は何だろうか? 今やNIJISANJIは利益のためにライバーを限界まで働かせるブラック企業と目されており、そのやり方を組織全体に拡大する機会にもなりうる。

 Reddit、フェイスブック、4chan、X、YouTube、その他のSNSで、今や何百人もの悪党たちが自分たちの意見を共有している。そしてあなた方の忘れ去られていた過去のやらかしを蒸し返し、真実を日々掘り起こし続けながら、あなた方のファンやライバーを攻撃する準備ができている。

 ANYCOLORよ、あなたは自身の過ちのせいで、VTuber界隈にさらに多くの悪党を生み出してしまった。鬱積した人々はとどまるところを知らず、あなた方は説明責任を求められ、信頼も得られないままだ。繰り返すが、これが拙い運営があなた方や所属タレント、そして視聴者に対して与える影響なのだ。

 VTuberから、つまり才能ある多くの人間を集めて帝国を築きたいと考えているなら、より懸命に努力し、よりよく学び、より多くの投資をするよう気をつけるべきだ。なぜならこれは「拙い運営の兆候が露見したら、ファンたちが一斉にあなた方を非難する」というエンタメビジネスなのだから。

【訳者注】
※1:BBCは王室関係者などの訃報に即座に対応できるよう、緊急報道体制を整えているという。
※2:推しのタレントやグループを表す絵文字。
※3:Selen Tatsukiのファンの呼び名(ファンネーム)。
※4:大金持ちはヨットを所有しがち、という欧米のジョーク。
※5:VTuberのCY YU VODS(Cy Yu)は、NIJISANJI ENに入らなかった理由として「『今の事務所を辞められるか?』と訊かれたから」と語っている。
※6:2023年7月に開催されたANYCOLORの株主総会における質疑応答での田角氏の回答が、海外での炎上のきっかけになった(翻訳の精度に起因する問題の可能性あり)。
※7:かつてにじさんじにはインド支部(NIJISANJI IN)があり、3人のライバーが属していたが、2021年4月に解散している。