ミンティ・ユキメはいかにして自分の新しい声に安らぎを感じ、自分を受け入れられるようになったか 【翻訳転載】

Note

 本記事は海外のVTuber専門Webメディア「VTuber NewsDrop」の記事を、許諾を得て翻訳・転載したものです。


ミンティ・ユキメはいかにして自分の新しい声に安らぎを感じ、自分を受け入れられるようになったか

「新しい声で、思い通りの声を出すことができた自分を本当に誇らしく思いました。でも、まだ成長の余地があると思ったし、実際今も成長しています」。

By Teddy Cambosa (2022/11/5)

注意

この記事は、デリケートな話題を含んでいます。
価値観は人それぞれですが、この記事はやさしい気持ちで読んでください。
内容については皆様がそれぞれご判断くださいますようお願いいたします。

 社会が幅広い性別を受け入れる方向に向かうにつれ、社会の中で個人のアイデンティティを確立するさまざまな方法に、これまで以上にアクセスしやすくなっている。自身のアイデンティティを確立するための手続きを受けたLGBTQ+に属する人たちもそこには含まれる。

 声帯女性化手術(Vocal Feminization Surgery)は、声帯の長さと喉頭のサイズを小さくすることで、より女性的な声にする手術だ。このような手術は、声というものがその人のジェンダーの表明であり、純粋な自己を浮き彫りにするものでもある。

 ミンティ・ユキメ(Minty Yukime)の1年にわたる声帯女性化手術の道のりをNewsDrop編集部が初めて聞いたとき、この話は特にVTuberコミュニティにいるLGBTQ+メンバーで、いずれは手術を受けたいと考えている人たちに伝えるべき印象深いストーリーだと考えた。

 そこでNewsDrop編集部はユキメにインタビューし、彼女の声帯女性化手術のいきさつについて、それが彼女にとってどのような意味を持つのか、また、彼女の経験が他のVTuberにどのような示唆を与えることができるのかについて、詳しく話を聞いた。

1年にもわたる道のり

ー声帯女性化手術にまつわる1年間の経緯を教えてください。

 「私は3年ほど前から医学的に女性としてトランスしていますが、2年ほど前に声帯手術という選択肢があることを知りました。

 ですが、当時ネットで調べた情報では、声帯手術を受けるには遠方まで行かなければならず、また、手術の種類にもよりますが費用も高く、軽く1~2万ドルはかかるようでした。

 多くのトランスが実感するのと同じく、『自分には受けるのは無理な手術だ』となかば諦めていたのですが、近くにオープンしたプライドクリニックに行く機会があり、そちらに行ってみることにしたんです」。

 参考までに、「プライドクリニック(Pride clinics)」とは、「LGBTQ+クリニック」と呼ばれることもあり、LGBTQ+の患者のニーズに特化した医療施設のことだ。特にトランスの人にとって、HRT(Hormone Replacement Therapy、ホルモン補充療法)やその他のことを自分自身で、あるいは訓練を受けていない医師を介して行うことはかなり難しいため、有益である。

 「自宅から2時間ほどかかるところにあるプライドクリニックに予約を入れたのですが、すでに予約がいっぱいで、1年以上先になってしまいました。

 幸いなことに、昨年、近くにプライドクリニックがオープンし、こちらは予約もかなり現実的で、2週間ほど待つだけで予約が取れました。

 その新しいPCP(Primary Care Practitioner、いわゆる“かかりつけ医”)のところで、私のトランス目標について聞かれたので、『声帯手術とかって、私には受けられないですよね』とさらっと話したところ、実は比較的地元でその手術を受けられる選択肢があることを医師から聞かされたんです」。

(ミンティ・ユキメによる声帯女性化手術の結果説明動画)

 「それでも高額なのは変わらないだろうと思っていましたが、いちおう調べてみたほうがいいだろうと思ったんです。そして2021年6月、オハイオ州クリーブランドの執刀医、マーク博士のところへ相談に行くことになりました。

 彼は私の鼻からカメラを突っ込んで声帯の写真を撮り、手術によって声帯がどう変わるかを説明してくれました。そして『手術の料金は3500ドル、のどぼとけを小さくするために気管切開もするなら5000ドルかかる』と言われました。

 想像できると思いますが、事前に想定していた1~2万ドルに比べれば衝撃的な料金で、テンションが上がる結果でした。そこで私は貯金を切り崩し、幸いにも手術の基本料金を確保できました。そして、わずか3か月後の2021年9月16日には手術を受けることになったんです。

 術後の回復のために仕事を休んでいる間の足しになるようにとサブアソン(subathon)を開催したところ、本当に素敵な方たちからの寄付のおかげで、休み中も十分にやっていけるだけの資金を集めることができました。

 手術当日は、いつも私を車で送り迎えをし、回復のための面倒を見てくれたパートナーと一緒に手術に臨みました。声帯の回復のために、3週間はまったく、あるいはほぼ話せないと聞かされてはいましたが、実際にその3週間を体験するまで、自分にとって話すことがどれだけ大切なことか気づきませんでした!

 話せない期間が続くのは想像以上にストレスでした。術後2週目にはほとんど体調も回復していたのに、3週目までは話すことが許されなかったんです。

 私が投稿した動画で実際に聞くことができますが、最初はとても弱弱しい声しか出せませんでした。でも、ガラガラ声で必死に話さなければならなかったのは、その3週間の直後のほんの短い期間だけでした!

 その後2か月ほどは、新しい声の使い方を学習し直し、再び楽に声を出せるようになることに努めました。(医者には)3か月目までには完全に回復するだろうと言われていました。

 おおむねその通りだったようで、3か月後には、ほとんど緊張することなく、疲れることもなく自分の声を出したり話したりできるようになりました。私の声は以前とは明らかに変わっていましたが、その時点ではまだ声のコントロールが十分ではありませんでした。

 自分が満足できる一定の音程を保ちながら高い声を出すことに集中する必要はなくなりました。でも、歌ったり、普通に話す以上のことをしようと思ったら、自分の好きな音域を出すのは難しいし、特に頭から胸の間あたりで発声をコントロールするのが難しいんです。

 友人のブリザード(Blizzard)とは、私がVTuberとして活動を始めた2020年の10月からずっと、一緒に曲のカバーをしようと話していたんです。私の回復後に彼女からあらためて一緒にできないかと言われたので、全力で挑戦した結果できあがったのがこの『Snow Halation』のカバーです」。

https://www.youtube.com/watch?v=PS5qegEtQ7g

 「これはかなり嬉しかったです! 新しい声で、思い通りの声を出すことができた自分を本当に誇らしく思いました。でも、まだ成長の余地があると思ったし、実際今も成長しています。まる一年かけて取り組んだ結果、ようやく自分の声に満足し、本当に好きなように歌ったり、声を変化させることができるようになったと思います! まだまだもっと堂々と、全体的にうまく話せるよう努力したいと思っていますが、術後1年の今の段階では、手術したのは大正解だと思っています」。

ファンからの歓迎

ー声帯女性化手術の成功を受けて、仲間のVTuberやファンからどのような反響がありましたか?

 「素晴らしい反響がありました! (術後でまだ)声が弱弱しかったときも、これまで以上に多くの人が応援に来てくれて、本当に素晴らしい気分でしたし、多くの人から『こんな手術があるなんて知らなかった』と言ってもらえました。

 トランス系のVTuberたちからは、私が受けた手術についてくわしく聞かれることも多く、必ずしもネットで見かけるような高額な手術ではないことを多くの人に伝えるという、素晴らしい経験もできました。

 今では、ほぼすべての配信で誰かしら私の声を褒めてくれます。VTuberの友人たちは主に私の声についてコメントしてくれます。友人たちの言葉を借りれば「以前よりもっとかわいくなった」ことが信じられないそうです!

 また、トランスフォビアなコメントや、配信に現れて『男みたいに聞こえる』と言って私をからかったりいじめようとする不特定多数の人も劇的に減りました。

 私のプロフィールにあるトランスの旗を見て驚くファンもいるほどです。私はトランスであることをはっきり言うようにしていますし、また、トランスの道を歩む人たちの手助けができていることに、いつも嬉しい驚きを感じています」。

意識改革

ーあなたが声帯女性化手術をしたことは、LGBTQ+ VTuberコミュニティに属する多くの人に刺激となっています。トランスというものについて、どこまで意識を高めることができるでしょうか?

 「正直なところ、まったくわかりません! 思い切って動画を作ってみたり、配信でときどき話したり、コメントや返信などで説明したりしていますが、いわば“中堅”のコンテンツクリエイターである私のリーチは限られています。

 今後、トランスチャリティーのためにお金を集める機会があれば幅広くやってみたいです。特に、トランスの方の声帯手術などの費用を負担してくれる団体を見つけられたらいいなと思っています。

 私でも払える値段ではあるものの、残念ながら美容手術・審美治療とされているため、ほとんどの人が保険適用外となっています。

 この手術がどれだけ私の生活の質を改善し、幸せと安らぎをもたらしたかというメッセージを押し出したいと思っています。そのためには募金活動をするのがよい方法かもしれませんが、それ以外でも提案をお待ちしています!

 私は他のトランスの人たちにも「もっと練習する」「もっと頑張る」以外の選択肢があることを知ってもらうために、ぜひ協力したいと思っています。というのも、人によっては、どれだけボイストレーニングを受けても、自分の望むような声になるのは無理かもしれないと感じて心が折れそうになることがあるからです。

 声はジェンダー認識において非常に大きな要素であり、実際、私にも大きな違いをもたらしたので、他の人にも同じことができることを願っています!」

 ーコミュニティが大きく進歩しているにもかかわらず、いまだに他人の性自認を疑う(要は同性愛嫌悪の)ファンもいるのが現状です。VTuberとして、LGBTQ+のVTuberコミュニティにもっと意識を向けるにはどうしたらいいでしょうか?

 「残念ながら、そうですね。手術を受けたことで、トランスフォビアやホモフォビアの人たちから問題行為を受けることは少なくなりましたが、それでもときどきチャットやコメントで言われることはあります。

 私は幸運にも、私を歓迎してくれるVTuberの輪の中にいます。なぜなら、彼ら/彼女らの大半はある種のLGBTQ+でもあるからです!

 認知度を高め、受容することを広めるためにもっと努力したいのですが、そこは私もまだ自信がありません。

 私は物事を話すときにはオープンであるように努めています。自分のプロフィールにトランスの旗を掲げ、Twitchでの配信では「LGBTQ+」と「トランスジェンダー」のタグを使用し、機会があれば喜んで自分の自己発見の経験を通して人々に語るように心がけています。

 できることはもっとあるかもしれませんが、それが私が現在やろうとしていることであり、多くの人が私に『自分が何者であるかを理解し、本当になりたい自分になるのを手伝ってくれた』と言っていることを知っています。他の人を助ける機会を与えられたことに、これ以上ないほど感謝しています!

 表現の発信源であることは、コミュニティ全体にとっても非常に重要だと思っています。実際、数年前に私が配信者・コンテンツクリエイターになることを目指したとき、自問自答したことがあります。「なぜトランスのクリエイターをそれほど多くないのか?」と。それ以来、多くの人に出会い、私自身もかつて自分が見たいと思っていたトランスクリエイターになれました!

 これからも、チャリティ団体やゲーム開発者などと提携したり、トランスに関してより多くの人に知ってもらえるようなコンテンツを作る機会を探っていきます!」

声帯女性化手術を受ける前の重要なアドバイス

ー声帯女性化手術を受けたいと考えているVTuberに、メッセージやアドバイスをお願いします。

 「一番いいのは、LGBTQ+に理解のある最寄りのクリニックやプライドクリニックを探してみることです。かかりつけ医のところに行って話してみてください。たとえ彼ら自身がよく知らなくても、正しい方向を示してくれるかもしれません!

 いつもそうとは限りませんが、多くの医療関係者はおおむね受け入れてくれますし、純粋に相談者を助けたいと思っていることがわかりました。怖いかもしれませんが、最初の一歩を踏み出し、予約を取ったり、まずは電話をかけたりして、助けを求めることが必要です。意外と身近なところに選択肢があることに気づくかもしれません!

 もうひとつ大切なのは、あきらめないこと! 医療制度を使いこなすのは大変なことです。予約が1年先まで埋まっていたり、あなたにリスケの必要が生じたり、医師側にもリスケが必要な緊急事態が起きたり、予約に行ったら手術までかなり長く待たされることがわかったり、手術を受けるために遠くまで行かなければならなかったりと、うまくいかないことがたくさんあります。私もトランス手続きの途中で何度も打ちのめされ、完全にあきらめそうになったことがあります。そんなときは友達を頼り、何があっても立ち上がることです!

 こんな風に考えてみてください。突き進んで成功すれば、あなたは成功者の一人として、他の人たちを勇気づけることができるかもしれないと。どうですか?

 また、辛い道のりではありますが、トンネルの先には光があります! 必要なお金や保険を手に入れ、予約から手術まで何もかもが終われば、悲しみを受け入れていた過去よりもはるかに幸せな気持ちでトンネルを出て行くことができるでしょう。

 そしてここでみなさんにピッタリな、ゴッホの名言を引用したいと思います」。

多くの人は、世の中がまだ良い方向に変わる可能性があると信じるのは愚かことだ、迷信だとさえ思っているようだ。

たしかに、寒い冬には思わず「夏がいくら暑くたって、今の私にはなんの役にも立たない」などと言いたくなってしまうこともある。

そう、悪はしばしば善を凌駕するように見える。しかし、我々とは無関係に、我々の許しを得ることもなく、とにかく厳しい霜の時期は終わる。

ある朝、風向きが変わり、雪解けが起こる。だから、私はまだ希望を持っていなければならないのだ。

見る人の目に映るもの

ー性自認という点で、あなたにとって声帯女性化手術はどれくらい重要なものなのでしょうか?

 「期待以上に素晴らしいことだったと言わざるを得ません! 電話では性別を正しく認識してもらえるし、日常生活や創作活動の中で投げつけられるトランスフォビアのコメントも減ったし、総じて自分という人間がより心地よく感じられるようになりました。

 カバー曲を歌ったり、ときどきは配信内でも歌ったりする自信がつきました。それはずっとやりたかったことですが、以前は周囲の目を気にしすぎて挑戦できませんでした。

 もちろん完璧ではありません。今でも時々、女性らしい声や超可愛い声を聞いて怖気づいてしまったり、『自分は一生あんな声になれることはない』と悲しくなったりすることがあります。でも、それも人生経験の一部なんじゃないでしょうか。

 自分を受け入れることを学び、常に「他の人と同じように」なろうと努力するのではなく、今の自分に満足することです。私の場合、手術前はもっと大変でしたし、完全に解決したわけではありませんが、抱える悩みは以前よりずっと少なくなり、その結果、日常的に直面する性別違和もかなり小さくなりました!」

素晴らしいインタビューの機会を与えてくれたミンティ・ユキメに感謝します!


※この翻訳記事のサムネイル画像はMinty YukimeのTwitch配信アーカイブのスクリーンショットから作成しました。